昨日のカラオケは大成功に終わった。あれからクラスのみんな仲良くなれたし、前よりも笑顔が増えたように思う。昨日は本当に楽しかったなあ。小さく笑いながら、授業中に眠気と戦う。昨日は高瀬くんとたくさん喋った。見たことない顔も見れた。思い出すだけでドキドキ鳴る心臓に、わたしはごまかすように窓の外に視線をそらす。今日は昨日とは打って変わって快晴だ。暖かい日差しの中グラウンドには体育をしている生徒たちが数人いて、わたしはぼんやりとその姿を眺めていた。ふと気づくとその生徒の中にこちらに向かって両手をブンブン振り回している男の子を発見した。

何やってんの、あいつは。

ふわふわの髪の毛を揺らして利央がこちらに向かって全力で手を振っている。利央は同じ委員会でなぜだかやたらと懐かれた一つ年下の後輩だ。何か返事を返さない限り止まらなさそうな利央の両手に、わたしは先生に気付かれない程度に軽く片手をあげる。それを見た利央は満足げにニッコリ笑うと友達の輪に駆けて行く。そんな利央の様子を微笑ましく見ていると、目の前の机に影が落ちた。目の前には学年でも鬼教師と恐れられている先生が立っていた。


「俺の授業でよそ見か」
「ひえ!ごごごごめんなさいっ」
「なーに見てんだ、好きな奴でもいんのか?」
「なっ!」


ちがーう!違う違う!絶対違うからね!どれだけ心で叫んでも口にしなきゃ誰にも伝わらない。クラス中がクスクスと笑いに包まれて、違うって言いたいのに気持ちは反対に顔がやたらと真っ赤に染まっていく。もーやだー!誰か違うって言って!「どいつだ?俺が協力してやろうか」、谷底に突き落とすような余計なお世話をする先生にひたすら首を左右に振り回す。助けを求めて美代を見るが、わたしのそういう浮いた話を初めて聞くせいか顔が笑っている。裏切り者ー!
結局、先生に散々からかわれて最終的に説教までされてクタクタになった頃ようやく授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。







「桜ー!」
「‥違うからね」
「またまたあ!」
「違うんだからね!」
「ちぇーつまんないの」


ニコニコ顔で駆け寄ってきた美代には真っ先に釘をさす。全くの誤解で騒がれたって困る。それに万が一さっきの相手が利央だって気付かれても、利央の迷惑になるだけだ。


「じゃあさっきの相手誰だったのー?」
「相手なんていないよ、ボーッと外見てただけ」
「えー」
「何その不満げな声は」


もう!美代はすぐにそういう話に持っていきたがるんだから!昨日今日でそんなに簡単に好きな人なんてできるわけないよ、ただでさえわたしはこんななのに。はあ。なんだか疲れてため息をつくと、ふいにさっき両手をブンブン振っていた利央を思い出した。男の子なのは、分かる。顔も体つきだって全然違う。頭では分かってるけど、そういうのを意識出来ない。男の子だからって付き合うなんて考えらんないし、男の子ってだけで誰にでもそういう対象としてドキドキしたりもしない。


「木下!」
「あ、はい」
「今日放課後、委員会な」
「はーい」


担任に呼び止められて、返事を返す。委員会か。利央もくるかな。確かに利央は話しやすいし一緒にいても楽だし楽しい。他の男の子とは違う。でもだからって利央とそういう関係に‥てわけにはいかない。
頭の中にさっきのしっぽをパタパタさせた利央を思い出した。
あいつは人間ってより、わんこだもんね。




「こんにちはー」
「お疲れー」
「お疲れさまです」


委員会の行われる教室へ行くともうすでにほとんどみんな集まっていた。教室を見回すが利央の姿はまだない。今日の出来事を話してやろうと思っていたのに。


「ね、利央は?」
「今日は部活が忙しいみたいで欠席よ」
「そっか。昨日雨だったしね」
「うん。あ、よかったらあんた仲沢くんと仲良かったよね?」
「ん、まあ」
「これ渡しといてくんないかな、今日の委員会の内容なんだけど」


ね、と笑顔で渡されたのは今日の委員会で使うらしい資料だった。委員会は相変わらずテキパキした委員長によってすぐにまとめられた。数分で終了した委員長のあと、わたしは忘れないうちにとすぐに利央に渡す資料を持って野球部のいるグラウンドへ向かった。

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