「今日高瀬くん来てくれてよかったね!」
「ねー!仲良くなれるチャンスだよ!」
「初めて喋ったけどドキドキしたあ」
「カッコイイもんねえ」


カラオケで部屋を抜け出してトイレに行くと女の子たちの黄色い声で溢れていた。それはもう高瀬くんの話題ばかり。きゃっきゃ笑いながらトイレを出ていく女の子たちに、わたしは知らずにため息をついていた。
知らなかった。高瀬くんってモテるんだ。そりゃそうだよね、だって野球部のエースだもん。同じクラスなだけでも自慢になっちゃう。
バシャバシャ手を洗いながらそんなことを考える。ピッと手を振って水をはじく。変なの。今日はわたし高瀬くんのことばかり考えてる。ぼんやりしたままトイレを出ると、ちょうど目の前の男子トイレのドアが開いた。


「!!」
「っ」


出てきたのは目を丸くした高瀬くんだ。思わず息を飲む。どうしよう、タイミングずらして歩き出した方がいいかな。いやでもこのタイミングでバラバラっていうのも変かも。だからって一緒に部屋に行くのも‥。頭ん中でいろんなシチュエーションが浮かんでは消えていく。どうしよう、困ってるの顔に出ちゃう。さっきのこともあるし気付かれたくないのに。


「‥‥」
「‥あ、」


わたしの気持ちを知ってか知らずにか、高瀬くんはぷいっと目を逸らすとわたしを置いて歩き出した。ドキッ。当たり前みたいに背中を向けられて、その背中に苦しくなる。わたしたちクラスメートなのに。これから先もずっとずっとこんな風に続いていくのかな。そばにいても知らないふりで、目が合わないように気をつけて、合ってもなかったようにそらして。
そう思うと苦しくて、気持ちが高瀬くんを追いかけていた。


「え、」
「‥‥」
「‥なに?」


きゅうっ。わたしは高瀬くんの制服を掴まえていた。俯いてて高瀬くんの表情は分からない。でも、掴まえた両手だけは離したくない。


「あ、のさ」
「‥うん」
「さっきの、違うからね」
「‥‥」


ぎゅうっ。掴んでいた制服をもっと強く握りしめる。高瀬くんが逃げることはないって分かってるけど、そうしてないとわたしが逃げ出してしまいそうだ。バクバク暴れる心臓に、伝えたいことを頭の中で並べる。高瀬くんは気にしてないかもしれない、でもわたしがこんな気持ちのままは嫌だ。カラオケボックスの廊下なのに回りが静かに感じる。何も言わない高瀬くんはわたしの言葉を待ってる。言わなきゃ、伝わんないよ。わたしは思い切って顔をあげる。


「高瀬くんは変わってないよって、意味だからね」
「はあ?」
「田中さんが、高瀬くんかっこよくなったよねって」
「で?」
「だから、そんなことないって言っただけだからね」


高瀬くんがムッとした顔をする。あ、わわわ!違う!うまく伝わんない!そうじゃなくって、高瀬くんがかっこよくなってないって意味じゃなくって!
わたしは力を込めて高瀬くんの制服を引っ張った。後ろのめりになった高瀬くんに向かって、まっすぐ投げつける。


「高瀬くんは中学のときからすごくかっこいいよ!」


ハタ。わたしの言葉に高瀬くんはカチンと固まってしまった。言ったあとで頭の中でもう一度口にした言葉をリピートして、ボッと顔から火が出るほど熱くなった。おずおず力んで掴んでいた高瀬くんの制服を手放して俯いた。
なんだこれ、なんかこれじゃ告白みたいだよー!今は帽子もない、隠すものなんてない。きっとわたし今すごくひどい顔してる。笑われちゃう。恥ずかしい。
しばらく黙り込んで俯いていたけど、いつまでたっても何も言わない高瀬くんに今度はドキドキしてきた。今何を考えてるんだろう、わかんない。

チラリ。

こっそり盗み見るように見上げると、バッチリ目が合った。あれ、高瀬くんなんで。


「‥な、なに意味わかんないこと言ってんだよ!ばかっ」
「わわわ、ごめんっ」
「‥っ」


プイッ。今度は体ごと逸らされる。ずんずん歩いていく高瀬くんの後ろ姿を見つめて、わたしはポツンと立ち尽くす。
高瀬くん、顔真っ赤だった。あれ、恥ずかしいのわたしだけじゃない?
胸に手を当てるとドキドキしているのが分かる。制服をぎゅっとすると、わたしも高瀬くんが向かったみんながいる部屋へと走った。

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