いきなりのクラス会だったせいかすでに予定が入っていて来られない子も結構いたが、それでもクラスの半分は参加することになった。バタバタと雨の中傘をさして数人でカラオケボックスに駆け込むと、走ったせいか少し濡れた制服を持ってきたタオルで拭く。さっそくカウンターで受付をする美代に連れられて、一番大きな部屋に入る。クラス会なんて初めてだ、意味もなくそわそわしてしまう。だけど、このそわそわはそれだけじゃない。
最後に部屋に入りながらこっそり振り返る。雨が本格的に降り出したのを見て、頭の中には野球部のことが浮かんでいた。


「高瀬くん、まだ来ないね」
「!!!」


心を読まれたのかと思った。跳びはねた心臓に振り返るとそこには田中さんがいた。ニコッと可愛い笑顔を向けられて、あからさまに思い切り目を丸くしてしまった。
なんで、なんで、田中さんはそんなことを言うんだろう。そんなこと言われたらわたしが高瀬くんを待ってるみたいじゃないか。

‥ん?あれ?

わたしはさっきから出入り口を見つめて、なにをしていたんだろう。なにを見ていたんだろう。ただ、すごく雨が降ってるから、野球部大変だろうなって‥そう思って。


「あれ?違った?」
「え‥」
「ずっと入り口気にしてたみたいだから、誰か待ってるのかと思って」


またしてもニッコリ笑顔を向けられて、なぜだかその笑顔に後ずさりしてしまう。
どういう意味だろ、田中さんは高瀬くんが好き‥なんだよね。わたしも高瀬くんが好きだと思われてる?ライバルって思われてる?


「ち、違う違う!雨ひどくなってきたなーって」
「ああ、そうだね。野球部大変そう」
「‥うん、そだね」


野球部、大変そう。わたしはただそう思っただけだ。田中さんが思ってるようなことは、わたし考えてないよ。きっと田中さんは高瀬くんが好きなんだ。だからわたしにこんな話をしてるんだろう。だったらわたしは、ちゃんと違うよって安心させてあげなきゃ。
部屋の中ではもうすでにみんなが盛り上がっていた。今だに廊下に立って話しているのはわたしと田中さんだけ。何か言おうと口を開くと同時に田中さんがわたしにだけ聞こえる声で囁いた。


「でもさ、高瀬くんかっこよくなったよね」
「‥へ?」
「もう!だから、高瀬くんだよ!かっこよくなったよねって」
「え、え?」
「最近男の子ーって感じになったなあって。そう思わない?」


そう嬉しそうに話す田中さんになんだかわたしは胸がズキズキしていた。田中さんが高瀬くんを好きなことは知ってる。そんでもって、多分高瀬くんも。
わたしは喉に張り付いた言葉を無理矢理引き上げた。なんでだろう、ムキになった。


「そう、かな」
「えー?」
「わたしはそんなことない気がする」


少しビックリした田中さんと目が合った。
またあの夏がフラッシュバックする。蝉の鳴き声とジワジワ競り上がってくるような、あの熱。帽子で表情は見えなかったけど、わたし知ってた。桐青のエースでいつも高瀬くんが野球がんばってるの。マウンドでまっすぐバッターから目をそらさずどんな相手にも逃げずにボールを投げてるの。本当は知ってたよ。ずっと、ずっと、見ていたんだ。高瀬くんは変わってない。ずっと、ずっと、かっこいいよ。


「‥悪かったな」


ボソッと聞こえた声に肩がビクリと揺れる。振り返ると高瀬くんがいた。しっかりと合わさった目線は、高瀬くんにぷいっとすぐに逸らされた。田中さんのフォローするような慌てた声を聞いて、改めて自分の言葉を思い出す。「高瀬くんかっこよくなったよね」「そう、かな」「わたしはそんなことない気がする」。


「‥‥」


うーわー!これじゃ高瀬くんの悪口だよ!どうしよう!
ぐるぐるなる頭でムッとした顔のまま部屋に入っていく高瀬くんの後ろ姿を見つめる。でも、そんなこと高瀬くんにとってはどうでもいいのかもな。わたしの言った言葉なんてすぐに忘れちゃうかも。
はあ。小さなため息をつくとわたしも高瀬くんと田中さんに続いて部屋に入った。

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