これほどまでに自分をアホだと思ったことはないかもしれない。いや、ないと言い切れる。そう、わたしはアホだ。
朝から机と俯せて仲良ししているわたしは昨日の白石先輩とのことばかり考えていた。言いたいことだけ言いたい放題で肝心の白石先輩の言葉は逃げ出すなんて、最低だ。だってまさかあんなことになるなんて思ってもなかったんだもん。今さら何を言ったっていいわけにしかならないんだけども。だって、あんな‥あんな‥。ボムッ!!そこまで考えて頭から湯気が出る。気が付けば触れていた白石先輩の唇は想像よりもずっと柔らかくて優しかった。ゆっくり離れていく白石先輩のわたしを見つめる細められた瞳が、なんだかどうしようもなくわたしの胸をドキドキさせた。

「おい、アホ」
「‥‥」

俯せていた頭の上から声がしてわたしは無視をする。「アホ、ボケ、グズ」、次々にぶつけられる暴言に額の筋がピキッと鳴る。こんな失礼なことをズケズケ言ってしまえるやつなんて、このクラスでわたしはこいつしか知らない。わたしは睨むようにして声のした方へ向き合った。そこには思った通り、呆れたようなうんざりしたような顔の財前が立っていた。

「昨日のあれ、なんやねん」
「なんもない」
「ないわけないやろ」
「放っとけ」

フンッ。わたしはあからさまに財前から顔を背ける。わたしだって当たり前だ、後悔してる。なんであんな態度とっちゃったのか自分でも分からない。ただビックリしただけだと思うけど、わたしの気持ちなんて知るはずもない白石先輩はそうは思わないだろう。どう思ったかな。告白するだけして、言いたいだけ言って、白石先輩の言葉からは逃げ出すなんて。もう嫌われたかも。そんなこと財前に言われなくたって分かってる。分かってるのに、きっと多分分かっててこいつはわたしにわざと言ってるんだ。

「あーあ、白石部長怒っとるやろなあ」
「‥うっさい」
「もはや言い逃げっちゅーかヤリ逃げの域やな」
「うっ‥」

口喧嘩では財前の憎まれ口には勝てる気がしない。キッと睨みつければ、ニヤッとした財前と目が合った。「あ」、ふいに逸らされた財前の目線の先をたどると、教室のドアからキョロキョロと中を見回す白石先輩がいた。わたしは今まで生きてきた中でも最速のスピードでしゃがみ込むとすかさずベランダへ逃げ込んだ。
「白石部長」
「おー財前、今日の部活の連絡や」

ベランダからこっそり白石先輩を見つめる。なんでもないように財前に部活の連絡をした白石先輩は、なんでもないように笑って教室を出て行った。さっきからよく分からない気持ちがグルグル胸を回っている。こんなのわたしの自分勝手だ。最低だ。
昨日のわたしとの出来事は白石先輩の中ではもう終わったこと?逃げ出したのはわたしなくせに、胸がズキズキしてる。

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