かっこいいなあ、綺麗だなあ、美人だなあ、素敵だなあ。白石先輩を前にするとこんなアホみたいなことしか頭に浮かばなくなる。全神経が白石先輩でいっぱいになるから、きっときちんと頭が働かないんだ。でも、それでよかった。それがよかった。好きの気持ちに見返りなんて求めない、見てるだけで幸せならそれだけでいい。そう思っていたのは昨日までのはなし。今日たった今、わたしは白石先輩に初めて秘密の気持ちを伝えた。

「‥好き、です」

自分の声がどこかから聞こえたような感覚だった。白石先輩を目の前にしていつもみたいにアホみたいなことで頭がいっぱいになったと同時に、ちょっとだけ欲張りになったのは本当だった。このままずっと白石先輩はわたしのこともわたしの気持ちもわたしの悩みも知らないまま過ごしていく、そう思ったときにそれはすごく淋しくて悲しいと思えてしまった。こんなに好きなことを知ってほしい、こんなに悩んでることを知ってほしい、こんなわたしがいることに気付いてほしい。そう思ったのと言葉が出たのは同じタイミングだった。

「‥え」
「え」
「え?」
「あ、や!違うくて!」
「‥違う?」
「や、違うくはないんですけど違くて!」

キョトンとした白石先輩がわたしをじっと見つめる。その目を見るたびに心臓がありえないくらいにバクバク鳴り出して、喉がヒューヒュー掠れている。
告白もそうだけど、わたしは白石先輩と今話せていることにドキドキしていた。こんなに喋ったのは初めてで、こんなに近いのも初めてだ。わたしの言葉に相槌うって優しく微笑みながら聞いてくれる。キュッと結ばれた白石先輩の唇が何か言葉を発するたびに、心臓がぎゅうぎゅうに握られる。

「だから、その‥」
「うん?」
「キ‥」
「キ?」
「キスして下さいっ」

言った瞬間、時が止まった。フリーズした時間は三秒ほどで動き出す。
ちっがーう!違う違う!違うから!
心の中でどれだけ否定しても声に出さなければ白石先輩には伝わらない。でも言ったそばから違うだなんて言ったって、なんだか嘘っぽくて仕方ない。わたしは思い切りオロオロする。なんであんなこと口走っちゃったんだろ、キスしたいなんてそんなこと今まで考えたこともなかったのに。もう最悪だ‥絶対ひかれた‥
もはや白石先輩を見るまでもなく落ち込んでいると、そばでふっと笑った気配を感じた。

「木下さん」

今までにないくらい優しい声で名前を呼ばれて見上げると、唇に柔らかい何かが触れた。パチパチパチ。三回ほどまばたきを繰り返してゆっくり離れていく白石先輩の顔を見つめる。くすっともう一度だけ笑うと、固まったままのわたしに、ちゅっとまた短い触れるだけのキスを落とした。
音もなにも聞こえない。白石先輩の声と気配と触れた熱い唇の感触だけ。

「ええよ」
「‥え?」
「ほな、付き合う?」

固まったままの頭に白石先輩の声だけが響いた。付き合う?なにそれ、食べ物?わたしと白石先輩が付き合う?嘘だよね、そんなの。
疑いと疑問と複雑な気持ちばかりが頭と胸の中をグルグルと回り続けている。ていうか、今わたし。なにした。好きって言って、そしたら白石先輩が‥。その瞬間、ボンッと火がついたように真っ赤になる。キスした、わたし。白石先輩と。

「木下さん?」
「やっ!え、ちょっと、待って!」
「え?」
「や、いいです!ごめんなさい!」
「‥え!」

白石先輩の言葉も聞かずに気付いたらわたしはその場から逃げ出していた。

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