「ちょっと待ってよ!ムリだってば!」
「約束やろー?」
「だ、だって‥」

ケータイをパコパコいじっている財前をよそに今だに告白するしないで揉める。告白のこの字も考えていなかったわたしにとって、突然心の準備もなしに告白しろなんて拷問だ。そんな乙女心も知らずに財前はわたしの手首を掴んでグイグイと遠慮なしに引っ張り歩く。こいつにこの繊細な乙女心が分かるはずなんてない、恋する乙女は複雑なのに!焦ったように財前を見上げると、ちょうど振り返った財前にニヤリと笑われる。その顔を見るとなんかもう、掴まれてる手を払いのけてでも逃げなきゃいけない気がした。こいつ絶対楽しんでるだけだ、この顔は絶対。

「やっぱわたしムリ!」
「ムリとかないし」
「あるし!」
「ないし」

グッ!、財前の腕をもう片方の手で掴むが流石は男の子、びくともしない。ていうか財前とかいつも散々だらしないくせに、面倒なこととかめっちゃスルーしてるくせに。こんなときばっか何張り切っちゃってんの。
わたしと財前はあるとかないとさ散々言い合いながらも、ズルズルと中庭まで引っ張られるはめになる。最後らへんなんて本当に引きずっていた、わたし一応女の子なのに。

「やだってばー!」
「はよこい」
「いーやー!」

引きずられながらもまだ抵抗していると、流石にうるさかったのかグッと腕を掴まれてそのまま引き寄せられる。痛い痛い、腕もげる!
でもそんな文句も一瞬ですっ飛んでいきそうなくらい、目の前に財前の顔があってわたしはキュッと息が止まる。

「ええ加減、覚悟しいや」

真顔で真面目に告げられたかと思えば、またいつものニヤッとした顔になる。わたしはグウッと財前を睨む。財前ってよく分からない。実は本当に応援しようとしてくれてるのか、ただ単に面白そうだから首突っ込んでるだけなのか。今度はトボトボと財前についていきながら、その背中越しに財前の心の中を探す。

「あ、白石部長」
「、!!」
「おっ、財前」

急に立ち止まった財前を見上げるより先に、柔らかい優しい声が聞こえてきてわたしは条件反射でガバッと財前の背中に隠れてしまった。ちょっと待った、まだ全然心の準備できてないのに!どうしよう!財前に隠れてオロオロするわたしを先に見つけたのはもちろん白石先輩で、ヒョコッと覗き込むと慌てて戸惑うわたしにいつもの笑顔でにこっと笑ってくれた。ああ、神様。やっぱりわたしはこの笑顔を見れるだけで十分幸せです。それ以上を望むなんてとんでもないです。

「部長、こいつが話あるらしいんすわ」
「ちょっ!」
「そうなん?」
「え、ええっと‥や、話って言うか‥」

しどろもどろになるわたしの腕を財前がグイグイと肘で突き刺してくる。口をパクパクさせて「は、よ、い、え」って分かってるし!急かさないで!ていうか、本当に?言わなきゃダメ?なんでわたしがこんなことになってんの?
もはやすべては今さらな疑問であって、目の前で首を傾げたままわたしの言葉を待つ白石先輩は何も知らないのだ。わたしがこんなに悩んでいることも、わたしが白石先輩をこんなに大好きなことも。そしてわたしがこれから白石先輩に言おうとしていることも。そう思ったとき、やっぱりわたしはこの目の前の彼しか見えなくなった。

「‥好き、です」

あ。気がついたときには、わたしの気持ちは言葉になって白石先輩へと届けられていた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -