「はよせえや」
「‥はーい」

ドッサリと大量の本を抱えてすました顔で振り返る財前の元へ小走りで駆け寄る。あの日、不本意ながら白石先輩への気持ちが財前にばれてしまった。秘密にしててほしいとプライドを捨ててお願いしたわたしに、財前は「黙っとく変わりに図書委員の仕事手伝えや」としれっと言い放った。そういうやつだと言うことは少し会話をしただけで分かってはいたが、ほんの少しの財前の優しさのかけらに賭けたわたしの心はあっさり打ち砕かれた。
よいしょ!偉そうに指示だけ出して自分はしれっとカウンターでケータイをいじっている。くそう!わたしだってこんなことしてる暇があるなら白石先輩を見たいし!
財前がケータイを触っているすきにテニスコートに目をやる。相変わらず白石先輩はカッコイイ。パンッ!ボールを打ち込んだ拍子にチラッとお腹が見えてドキッとする。ああダメだ、白石先輩をそんな目で見ちゃ。でもでも!とにかくカッコイイ、テニスをしててもタオルで汗ぬぐっててもドリンク飲んでいても。見つめるだけでこんなに幸せだなんて、ずっとこのままでいたいなあ。そんなことを遠くのテニスコートを見つめながら考えていた。





「ちょ!やだよ!」
「だーいじょうぶやって!」
「はーいいくでー」

次の日の昼休み、同じクラスの男の子に好きな子が出来たらしくわたしたちは恋ばなをして盛り上がっていた。始めはその男の子の好きな子の話だったはずがどんどん逸れて、結局は男の子が告白するのに一人じゃ心細いからともう一人トランプで負けたひとが一緒に告白をすることになってしまった。そうしてトランプが数人に配られて嫌々言っているうちにもうババ抜きが始まってしまったのだ。

「待ってよ、わたし告白しないよ?」
「大丈夫!負けへんかったらええんよ」
「ま、負けたら?」
「言う!」
「ヤダー!」

ワーワー言いながらもグルグルと順番は回っていく。これだけ人数いれば平気だろうと腹を括っていたら、ふと気がつく頃にはわたしとクラスの女の子の二人の対決になっていた。手持ちにはババとスペードの3。相手の女の子は分かっていたかのように思い切りスペードの3を引き抜いた。ワー!歓声が上がり告白告白とコールされる。まさか負けるだなんて思ってもみなかった、ましてや白石先輩に告白する予定なんてこれっぽっちもなかったはずだ。見つめるだけで幸せだなんて言っていた昨日が遠い日のようだ。

「ほな、桜の好きなひとて誰なん?」
「い、いないよ」
「えー!今さらおらんはなしやで?」
「そんなこと言ったって‥」

パチッ!後ずさるわたしに最悪のタイミングで財前と目が合ってしまった。ニヤリ。いやーな感じで笑われて思わずひきつった笑いを返す。

「そいつの好きなひと、知ってんで」
「ちょおー!財前まった!お前約束が違う!」
「俺がした約束は白石部長には言わんっちゅーことだけやし」
「白石?」
「財前んんん!」

フンッと偉そうに鼻で笑われて生意気なその顔に右ストレートをかましたくなる。本当に最悪だ。まあ財前に知られた時点でこうなる運命だったんだろうけど。

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