白石先輩と初めて話した「プリント落ちたで」の日から、わたしは白石先輩ばかり目で追うようになっていた。わたしは二年で白石先輩は三年だから毎日会えるわけじゃない。わざと会えるような偶然を作らなきゃ会えない。例えば水曜日の二限目のあとは必ず移動教室で三階の渡り廊下を通るとか、火曜日と金曜日は体育でグラウンドにいるとか。ストーカーかって友達に言われて、少し我慢して改めようって思ったときに限って友達と笑う白石先輩の笑顔が目に入って、結局わたしはあの笑顔に会える欲には勝てないのだ。





「なにしてん」

図書室で本を読んでいたわたしに、まさにひらがなの発音で声をかけられてポカンとしたまま振り返る。振り返った先には同じくキョトンとした男の子が立っていた。こいつ知ってる、と言うか同じクラスだ。名前は確か、財前光。図書委員だ。呼びかけられたことすら忘れてひたすら財前をポカンと見つめていると、明らかに冷めたような目でわたしをつま先から頭までなめるように見てきた。なんだこいつ、喧嘩うってんのか。

「なにしてん」

同じ質問を繰り返し言われて、さっき問い掛けられていたことを思い出す。わたしはわざとらしく持っていた本を目に通しながら、嫌味ったらしく本当とは違うことを答える。

「本読んでんだけど」
「へえ。同じページに30分もかかんねやお前」
「‥うっ」

いつから見られていたのか、痛いとこをつかれて思わずうめき声をあげてしまった。ムッとしたまま財前を睨むと、フンッと鼻を鳴らして返された。なんなんだコイツ!そういやクラスの友達が財前くんクールでカッコイイとか言ってたっけ、どこがだよ!
とりあえず、本当のことを知られるとまずいのでスルーすることに決めた。無駄に反応したらいけない。反応するからこんなやつに絡まれるんだ。さ、ムシムシ!
わたしは本に夢中になるふりをする。財前の刺さるような視線を上手くかわす。

「あ、なんやここめっちゃテニスコート見えるんや」

ギクッ!思わず肩が揺れそうになってしまった。そういえば財前も白石先輩と同じでテニス部なんだっけ。嫌な予感が頭を過ぎる。
毎日会えたり会えなかったりやっぱり好きなひとを見ることでわたしの充電は満たされるのだ。つい最近、ここがテニスコートを見るための特等席だと知ってから毎日のように通いつめていた。そりゃ突然毎日図書室に来て同じ場所に座る生徒がいたら普通気になるよね。財前が図書委員だったとは誤算だった。

「あ、白石部長」
「‥!」

財前の言葉に思わず顔を上げてテニスコートを見つめる。白石先輩はいつも通り後輩やチームメイトに練習の指示を出していた。カッコイイなあ‥!きゅんきゅんする胸を何でもないように見せて、本に目線を戻すと後ろにいた財前にフッと笑われた。

「へえ」
「な、なに!」
「それ目当てやったんやな」
「えっ!違う!」
「まだ何も言ってへんやろ。ふーん、白石部長ねえ」
「言ってる!違うから!違う!」
「へえへえ」

ニヤニヤしながら図書委員の仕事に戻っていく財前に、わたしは一番面倒なやつに知られてしまったことにガックリと肩を落とした。

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