遠くから見つめるだけでよかった。それだけで毎日幸せだって胸張れるくらい、それぐらい彼が現在進行形で大好きだ。わたしの言動すべては彼のためであって、彼を思ってのことだ。こうしたら彼は好きかもしれない、彼ならきっとこう言っただろうって。彼のことを何も知らないから、かもしれないとかだろうとか予想しか出来ない距離だけどそれでよかった。近付きたいだなんてことは思わない。好きでいることを許してくれるのならば、それだけでいい。そんなずいぶんと一方的な気持ちを抱いていた。





「プリント落ちたで」

サラッと流れるような髪を揺らして白石先輩がわたしに向かってプリントを手渡した。出会いや誰かが特別になる瞬間なんてどこにでも転がっている。優しく笑いかけてくれた白石先輩を見たときから、わたしにとって白石先輩が特別な存在に変わっただけのこと。
わたしは慌てて両手に抱えていたそのほかの資料や筆箱を抱え直すと、白石先輩に差し出されているプリントを資料を手に持ったまま受け取ろうと必死に手を伸ばした。ドキドキ鳴る心臓は正直で白石先輩の手から受け取る瞬間を楽しみにしていたのに、いつまでたっても白石先輩はわたしにプリントを渡してくれない。不思議に思って見上げると、プッ!と白石先輩が吹き出した。笑われるようなことをした覚えがなくキョトンとした顔のまま白石先輩を見つめる。

「自分、わんこちゃんみたいやな」
「わ、わんこ?」
「ははは!」

白石先輩が何をどう感じてわたしのことをわんこちゃんだなんて言ったのかはサッパリだけど、わたしのことの何かで笑ってくれたことが嬉しい。からかわれて笑われてるはずなのに嫌な気がしない。
ひとしきり笑った白石先輩はすまんすまんと涙目をこすりながらわたしと向き合った。途端に心臓がドキドキしだす。「ほら」、片手を差し出されてぼんやり見つめていると、両手をふさいでいた資料を半分以上取り上げた。もちろんわたしが落としたプリントも含めて。

「プリント!」
「ええよ、持ってったる。重いやろ?」
「そんくらい重くないです!」
「ええから」

なっ?、と魔法の笑顔を見せられてそれ以上なにかを言い返すことが出来なくなる。両手いっぱいに抱えていた資料のプリントの山は、今は白石先輩の腕で軽々と持たれている。すごいなあ、カッコイイなあ、ただ単純にそう思ったのが第一印象だった。
一目惚れなんて言ってしまったら簡単だけど、まさしくそれに近かった。初めて話した今日この瞬間からわたしの世界は白石先輩を中心に回りはじめるのだ。

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