喧嘩なんてしたこともないし文句だって言ったことない。我慢してるわけじゃなくて、ただ単純に千歳とそういうことになるなんて考えられなかったしなることないって勝手に思っていた。でもそれはあくまでわたしの問題であって千歳もそうだとは限らないのに。
「振りにきたとね?」、そう言ったきり黙り込んでしまった千歳をわたしは見ることが出来ずにいた。今わたしが言いたいことすべてが千歳を傷付けてしまいそうで、もうこれ以上千歳が悲しい顔するのは嫌だ。


「千歳‥」
「‥‥」
「あの、ね」


声を出すにつれて千歳に逸らされたままの目が怖い。こんなの嫌だよ。わたしは千歳が好きで好きでたまらないのに、あんなことで嫌いになんかなるはずないのに。膝の上に作っていた拳をぎゅっと握りしめる。決意したわたしはキッと逸らされたままの千歳の目を見てから、着ていた制服の上着に手をかけた。プチップチッ‥ゆっくりとボタンを外していく。胸元まで開けたところで大きな手のひらがわたしの両手を掴まえた。


「な、なんばしよっとね!」
「‥脱いでる」
「な、何で!いかんたい!な、なんで‥」
「だ、だって‥千歳、そゆの好き、なんだよね?」
「なっ!」
「だからわたし」
「ダ、ダメっ!」


さらにもう一つボタンに手をかけると、慌てた千歳に腕をガバッと掴まえられた。グラッ‥勢いあまってバランスを崩したわたしはそのまま千歳と後ろに倒れてしまった。ゴンッ!頭を床で思い切り打って一瞬視界に星が舞った。それからすぐに目の前に真ん丸な目でわたしをまっすぐ見下ろした千歳と目が合った。パチパチ、瞬きするわたしと違って千歳はさっきと打って変わって目を逸らさずにわたしを見つめる。ふいに視線を下に下げられてつられてわたしも下を見ると、さっき脱ぎかけていたシャツがはだけて胸元が少しだけ見えていた。後頭部を打って冷静になったのか急に恥ずかしくなる。でも、ここで引き下がったらダメだ。向き合うって決めたんだから。


「ち、千歳」
「え?」
「どうぞっ!」


そう言って千歳を見上げるとキョトンとした顔が見えた。なんだかむしょうにその表情にホッとさせられているわたしがいた。「え?」、ポカンとしたまま聞き返す千歳にわたしはもう一度「どうぞ!」と告げる。


「だからあ!もうっ、なんで説明しなきゃいけないの!」
「え、待った待った」
「わたしを好きにしてって言ってるの!」


キュッと噤まれた千歳の口元を見つめる。千歳の喉がゴクリと鳴る音が聞こえた。ぎゅうっと目を閉じて千歳が動くのを待っていると、しばらくしてから柔らかい暖かいものが一瞬だけ唇に触れた。それから腕に感じていた大きな手のひらが退かされる。自由になったわたしはそのままパチッと目を開ける。すぐ目の前にいた千歳に愛おしむように頬を撫でられて、もう一度キスをする。いつもみたいに触れるだけの優しいキス、ただいつもよりも長くて熱いキス。
体がポカポカほてってきた頃に離れてく千歳から微かに熱い吐息がかかって、心臓がいつもと違う音をたてた。そのまま千歳にはだけていた前のボタンをとめられる。さっきのキスの余韻がまだ残って頭がトロトロだ。されるがままなわたしに千歳が困った顔で苦笑いしているのが見えた。

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