屋上から逃げてきたあの日から数日の時がたった。あの日、千歳からすぐに着信があってわたしは電話をとらなかった。怒りとか悲しさとかじゃなくて、ただ不安だった。千歳の口から千歳の言葉で告げられることが。あんなものを見つけても結局わたしは千歳を嫌いになるわけもなく、むしろ好きだからこんな気持ちになっているわけで。だからこそ、今は言い訳も理由も聞きたくなかった。千歳の着信だけ個別メロディー設定にしているからすぐに分かる。わたしは携帯をぎゅっと握りしめる。もし、もしも、もう一度だけ千歳から電話がきたなら、ちゃんと千歳の話しを聞こう。それが言い訳だったとしても千歳の言葉を聞こう。

そう決意したのに、ただの一度きりで千歳から電話が鳴ることはなかった。





「お前ら最近どうなってん?」


お昼休み、突如現れた白石は第一声でわたしにそう問い掛けた。ゴックン!お母さんの作ったお弁当の中で一番大好きな卵焼きを一口で丸ごと飲み込んでしまった。喉に詰まりながら白石の言葉をそっくりそのまま聞き返した。


「千歳とに決まっとるやろ」
「別にどうってわけでも‥」
「ほな何で全然喋らんの?」
「何でって‥」
「喧嘩か?」


包帯巻いた手を机について、白石はわたしを探るように見上げる。喧嘩?これがただの喧嘩だったらもっと早くに謝ってしまえば簡単なこと。でも謝って仲直りしたってきって千歳と付き合っていくならずっと付きまとう問題だ。深いとこまで、千歳のちゃんとした男の子の部分までを見なければいけない。白石と謙也がこの間言ってたように、あの女優さんは千歳にとっても女神でそういう欲はあの女優さんで済ましてるって。そういうことを受け止めるってことだ。でも千歳のことを大好きなわたしにとって、それを見つめることは難しいことだ。結論を言ってしまえば嫌だから。でもそれじゃ、千歳と向き合えない。


「千歳、学校来とらんで」
「えっ!」
「ここ数日は部活も来ん」
「な、なんで‥」
「さあ、なんでやろなあ」


そう言った白石に柔らかく微笑まれて不安な気持ちが押し寄せる。あの千歳が風邪をひいたって聞いた日と同じ気持ち。心配で不安な。わたしは白石を見つめてぎゅっと唇を噛み締める。そうだね、千歳がどうとかあの女優さんがどうとかそんなことは二の次で。わたしに一番肝心なことはわたし自身の気持ちだ。どんなにいろんなことがあったってあの千歳が風邪をひいた日の思いと今の思いは何一つ変わらない。千歳を好きだと思う気持ちは変わることはないのだ。


「わたし、千歳の家行ってくる!」
「行ってらっしゃい」


昼休みにも関わらずわたしはかばんを引っつかむと学校を飛び出した。いつまでも逃げてちゃ千歳に告げた意味がない。少しでも近付きたいから。

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