私の上に跨る男。右目を失った哀れな人。
左目がぎろりと睨む。こわい、動けない。
「どうして剣をふるった。怪我人の手当てをしろと言ったはずだが」
「私も戦いたかった」
「怪我負って足手まといになったのはどこの女だ」
「もう女は捨てた」
「そうかィ」
着物の中にするりと手を入れてくる。体をなぞる手が憎い。それに応える身体も憎い。
「…っ、あ」
「残念ながら女は捨てきれてないようだぜ?」
面白そうに喉を鳴らす彼をキッと睨みつける。
「あんたと行くって決めた日から刀を握る覚悟は決めた。死ぬことだってもう恐くない」
「女が語んな」
「女じゃない、私も戦う」
「戦は女が立っていいような、そんな甘っちょろい所じゃねェ。お前にはわかるめーよ」
「わかるわ、」
戦場は人を人でない存在にする。一度刀を握った者に死ぬまで死者が付きまとう。一度人を斬った者に拭えない血が纏わりつく。私を女でない存在にする。
だから女を捨てたのよ。刀を握るため、先生の敵を討つために。
「なのにあんたは私を、一度捨てたはずの女とみなすの、晋助」
「お前はどう足掻いても女だ。こんな細い腕で刀など握れはしないだろうよ」
ああ憎い、憎いわ。
先生を返してくれないこの世界も、いつまでも終わりはしないこの戦も、私を女として扱うこの人も。
「憎い、あんたが」
「言ってろ」
ずしりと体を重ねる。重たい。噛み付くようなキス。苦しい。
ああやっぱり私は女なのかなぁ。女を捨てても晋助がまた私を女という存在に仕立て上げる。憎い人。
でも私は知ってる。刀を握らせてくれないのは、何も私が女だからじゃない。先生から教わった剣を人殺しに使うことになるから。だから私に刀を握らせてくれないのだ。きっと彼は彼なりに苦しんでいる。先生に教わったそれを人斬りのために使うことに。
晋助の背中に手をまわす。こんなに大きな背中も今にも重荷に押し潰されそうで小さく思えた。全部一人で背負ってるんだ。先生に対する罪悪感も、刀を振るう苦しみも。
私は知ってる。この人は全部一人で抱えようとしている。一人で苦しもうとしている。私に何も言わないで。ああやっぱり憎い人。不器用ゆえに銀時たちとも道を違えて損な役回りばかり。本当に馬鹿な人。
「女でいろ。刀なんて握んな」
重ねる身体、荒い息。生ぬるい体温、小さな背中。鋭い目。優しい手。
「お前は女だ、俺の」
ああ憎い人。けど憎めない人。ずるい人。
稚拙な愛に酔いしれる