「大きな傷じゃないからって無茶しないでよね」

どれだけ心配したと思ってるのと彼女は続ける。

「すまなかった。お前に迷惑はかけられんと思ったのでな」

「一人で抱え込まないでよ」



すっと彼女の手が俺の胸の傷に伸びる。妖刀だが何だが知らないが結局はただの道具に過ぎなかった。高杉のための。


「抱え込んでいるのはお前だろう。高杉に会わなくてよかったのか?」


部屋は静かだった。彼女はこちらに顔を向けない。



「馬鹿言わないで。私は貴方の女、よ」


手から人の暖かさが伝わってくる。人の体温がここまで心地のいい安心できるものだっただろうか。彼女の手はいつも暖かい。それは昔からずっとそうだ。そして俺はそんな彼女を心底愛おしいと思っていた、ずっと昔から。




「強がる必要はない。お前が高杉に会いたいと思うのも無理な…」

「あの人に私は必要ないの」

「……」

「とめたのに、きかなかったのよ。晋助は」

挙げ句、俺に納得いかないなら連れていけねえとか言って、私は一人置いてけぼり。銀時も貴方もこんな怪我負って。情けも何もあったもんじゃない。


「あの馬鹿に会いたいだなんて、とても思えないわ」


ケラケラと彼女は笑う。昔から変わらない独特な笑いは今日はどこか寂しそうな乾いた声だった。心の底から笑えていないのだろう。



「お前は、俺について来さえすればいい」

「…わかってる」


胸にあった彼女の手をぐいっと引っ張った。急に体の重心を変えられた彼女はすっぽりと俺の腕の中。


「わかってる、よ」

「何も言うな」



ああきっとこいつは忘れてないのだろう、昔の男が忘れられないのだろう。わかっている、そんな彼女を苦しめているのは自分だと。


「だいじょ、ぶ…だから」


泣かすまいとそばにおいた女を泣かしてしまう俺は、あいつと同じくらい馬鹿か。はたまたそれ以下か。幼稚な自分にはそれさえわからない。今の俺にわかることは一つ、彼女の涙の生暖かさだけ。湿った胸が彼女と俺との体温をつないだ。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -