「先生、高校生にもなって授業で焼き芋はないと思いまーす」
「先生はアリだと思いまーす」
「小学生じゃあるまいし」
「たくよォ、最近の高校生はこれだからいけねーや。格好つけてガキくせえとか面倒くせえとかすぐ言うし。そんなこと言いつつ実は嬉しいんだろお前ら」
「先生、寒いでーす」
「何かことあるたびに寒いとか疲れたとか言うしさァ」
いや、面倒くさいとかそういう屁理屈なしで寒いんだってば。もうそろそろ冬になるっていうこんな時期に焼き芋なんて。焼き芋と言っても、焚き火の中にお芋を突っ込んでるだけの簡単なものなんだけれど。はあ、とため息をついてあたりを見回せば、クラスのみんなは結構乗り気だったりする。土方くんなんてマヨ持ってスタンバってるし、不登校の高杉くんもちゃっかりこの授業だけ参加してる。神楽ちゃんを筆頭にして女子は焼き芋の焼き加減をみているし、男子は焚き火の火が消えないように協力している。さっちゃんなんて…焼き芋コス?して先生に「召・し・上・が・れ」って襲いかかってスルーされてるし、山崎くんなんて…ミントンしてるし。相変わらずフリーダムなクラスだけれど、みんなこういうことはわりと積極的だ。
「はやく食べたいネ!待ちきれないアル!」
神楽ちゃんが木の棒で焚き火をつつくと、中から新聞紙がちらりとのぞく。その新聞紙の大きな塊には『かぐら』とマジックで書いてある。神楽ちゃんのお芋大きいなあ。
「いじくりまわすんじゃねェ、火が消えちまうだろィ」
「火をみるのは男の仕事ネ」
「んだとチャイナ!」
「まぁまぁ神楽ちゃん。焼き芋、できたみたいよ」
「本当アルか姉御!」
妙ちゃんに導かれた神楽ちゃんは、早速大きな焼き芋を頬張っていた。妙ちゃんナイス。沖田くんはしぶしぶ焚き火に落ち葉を追加していた。少し火種が大きくなったところで、沖田くんがまた両手に落ち葉を持っている。あれ?まだ追加するつもりなんだろうか。
バサバサバサ
「総悟…てめェ…!」
「おっといけねェ、手が滑っちまいやした」
「上等だァ!」
頭上から落ち葉をかけられた土方くんはマジギレだ。気持ちは分からなくもない。落ち葉を上からかけられたときってチクチクして痛いよね、服の中に入ったときなんてパリパリ砕けて小さくなって一層チクチクするよね。二人が落ち葉の掛け合いこを始めて、沖田くんが土方くんのマヨをひったくって投げた。運悪くマヨは見事神楽ちゃんに命中した。「人が美味しく焼き芋食ってるときに何するアルかァァア!!」即座に神楽ちゃんはそばにあった何かを沖田くんたちめがけて投げた。え、うそ、その新聞紙って、その包みって、もしかして、
「わたしの焼き芋が!」
沖田くんたちを飛び越えて、勢いよく向こうに飛んでいった新聞紙には間違いなくわたしの名前が書いてあった。あぁ、そんな。
「何だかんだ言ってお前焼き芋食いたかったんじゃねーか」
「先生には分からないでしょ、愛情込めてじっくり大事に焼いて育ててきたこの気持ち」
はあ、と本日二度目のため息。相変わらず寒いから、ほくほくの焼き芋が恋しく思えてくる。
「ほら、」
「は?」
「半分やるよ」
「……」
「先生と半分こ」
「きも」
「ひど」
なんて。秋の終わり。グラウンドの隅っこ。落ち葉をかこんでにぎやかなクラスメート。青春。先生の持ってる新聞紙には『ぎん』の文字。渡された新聞紙に『はち』の文字。まるつけるの忘れてるよ先生。そうだなァ。新聞紙からのぞく黄色い芋がほくほくしている。美味しそうだ。
「先生、こんなおいしい展開きいてませーん」
「ほんとうめぇな、芋」
芋じゃないってば。でもそっぽをむいた先生の頬がすこし赤くなってたのをわたしは見逃さなかった。ウブな先生だなあ。あえてわたしの言葉を聞き流した先生のように、わたしもあえてそこは指摘しなかった。わたしたちはただの生徒と先生という関係であって、それ以上の関係ではない。なのになんで、なんでこんなにも胸が高鳴るんだろう。なんで先生の顔もまともに直視できないんだろう。まるでわたしと先生のあいだだけ時間が止まったみたいだ。
「いただきます」
高鳴る胸を落ち着けたくて、思いっきり芋にかぶりついた。ねっとりとした芋独特の繊維が舌の上で溶ける。熱い、けど、なんてあまい焼き芋だろう。
(111216)
ほくほく
title:深爪