「先生と何話してたの」

「単位危ねェって言われた」

「どんまい」

「このザマだ」


晋助が持ってた紙袋の中をのぞき込んだら、分厚い参考書が三冊と何十枚ものプリントがあった。あまりの量の多さに目が眩んで一瞬だけ札束に見えた。ああ、これが全部一万円の札束だったらどんなにいいだろう。むしろそうであってほしい。紙袋の中身を凝視していると、びゅんと自分たちを追い越していく自転車におどろく。坂道なだけに自転車は勢いづいていて、追い越していったあとに冷たい風が巻き起こる。ああ、寒すぎる。


「どうするの、これ」

「今週中に全部提出」

「…無理でしょ」

「一人じゃ無理だ、一人は」

「は?」

「手伝え」

「いや二人でも相当きついって」

「今週中に提出できなかったら冬休み毎日補習になる」

「かわいそう」

「だろ?」

「それに付き合わされる先生が」

「死ね」

「死ねはひどいわ!…ってちょっと晋助!」


わたしの言ったことが相当気に食わなかったらしい。機嫌を損ねた晋助は早足で反対側の歩道に渡っていった。一体どんな拗ね方だよ。いまどき小学生でもそんな拗ね方しないってば。


「ああっ!ママー、このひと横断歩道ないのにどうろわたってきたよー!ねー!」

「いいから前向いて歩きなさい!」

「だってこのひとがー!」

「………」


あ、晋助ちょっとバツの悪そうな顔した。子どものお母さんもすごく申し訳なさそうな顔してる。晋助にとってこれは純粋なダメージになること間違いなし。いいぞ、もっと言ってやれ!晋助の後ろを歩いている子どもは相変わらず晋助をじっと見あげている。そのお兄さんすごく恐い顔してるからあんまり見ないほうがいいよ絶対泣く羽目になるよ。晋助が子どものほうを振りかえらないことを願って、坂道の終わりにある横断歩道を目指す。あそこで合流しようっと。




「高杉くーん」


青に変わった信号の音にあわせて軽い足取りで晋助のところへ向かう。相変わらず不機嫌そうな顔である。


「んだよ」

「ちゃんと横断歩道を渡りましょう」

「うぜ」

「子どもの見本になることをしましょう」

「……」

「事故にあったらどうするの」

「ガキじゃあるまいし」

「晋助の拗ね方は十分ガキだったよ」

「そーかィ」

「まあ、そういう子どもっぽいとこ嫌いじゃないけどね」


空いてるほうの晋助の手をにぎったら素直ににぎりかえしてきた。晋助はもう拗ねてない証拠。高校生とは思えないくらい本当に子どもっぽい。


「ママー、ぼくもおててつなぎたいー!」

「はいはい」


始終晋助のことをずっと見ていたのであろう後ろの子どもの一言に、なんだか無性に照れくさくなった。さっき晋助もこんな気持ちだったのかな。なんだか恥ずかしくなってつないだ手をほどこうとしたら、晋助がそれを許してくれない。放せと言わんばかりの顔で晋助を睨むと「子どもの見本になることをしましょう、だろ?」としてやったりの顔で言い放ってきた。ずいぶんと機嫌が良さそうである。あーはいはいそうですね。仕方ないからこのまま手つないでおいてあげるよ。



(111213)
冬休みはデートなしだね


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