「好きって言えアホ!」

意味分からへん、とでも言うような彼を睨みつける。志摩の助平、阿呆、馬鹿。だけど、わたしもわたしだ。そんなこと付き合う前から知ってたはずなのに。他の女の子は本気じゃないって、分かってるくせに、情けないなぁ、わたし。


「いきなり押し倒されて、そないなこと言われても」


なぁ?と肩をすくめて苦笑いをうかべるほっぺをつまむ。できるだけ、爪の跡がつかないように力をこめて、ぎゅう。これは地味にいたい。いてててと顔を歪める志摩が口をひらく。どないしたの?そのひとことがまるで引きがねのようになって、いつも喉もとにつかえていた言葉がぴしぴしとはじけて口からでていく。



「神木さんと仲良う話しよったね」

「あぁ、ええ人よ」

「楽しそうやった」

「おん、楽しいで」

「杜山さん、かいらしい子やな」

「せやろ。ふわふわしてて雰囲気からしてかいらしいで」

「…いつもせやで。他の女の子にかいらしいてべたべたで」


ああ、言っちゃった。志摩は面倒事がきらいなのに、こんなこと言っちゃ、きっと嫌われてしまう。やだやだ、わたしは志摩が好きなのに、好きだからこんなこと言ってるのに、気持ちはからまわり。


「志摩の彼女はわたしや」

「違う」

「なっ、なんやて!」

「志摩やない」

「ちょ、」

「廉造や」



ぎゅっと抱きしめられた。あれ、いつ間にこんなことになっちゃったの。わたしが押し倒してたはずの志摩の体は、一瞬で起き上がってわたしを包みこんでいて、肩にかかる吐息がすこしくすぐったい。「そろそろ呼び慣れてもええ頃とちゃいますの」だんだん顔に熱があつまってくるのが分かる。あーあ、やっぱり廉造にはかないっこないんだ。ふらふら女の子についていくようなくせして、本当はすごく大人っぽくてまっすぐで、やさしい。だからわたしはよけい不安になるんだよ。わたしは廉造のそばにいていいのかなあ。こんな子供っぽいのが、廉造の彼女でいいのかなあって。


「れ…れんぞう」

「なんや」

「いちいち妬かすな」

「はいよ」


頬にくっついている廉造の右頬がぐうっと持ち上がるのが分かった。「かいらしい彼女もてて、俺はとんだしあわせ者や」まったく本当にそう思ってるんだか。


「好きや」

「うっうるさいしっとるわそないなこと!」


恥ずかしくなって早口になったうえに変に声を荒げてしまった。廉造がくすっと笑ったから、ますます恥ずかしくなる。好きって言えなんてつよがって言ったけど実際好きなんて言われたらこっちの身はもたないようだ。なんせ抱きしめられるというおまけつきだから当然かなあ、なんて。廉造はいまだに解放してくれる様子はない。おそらく今わたしの顔は真っ赤だろうから、このままお互いの顔が見えないほうが好都合だったりする。照れてんのもかいらしいなあってからかわれる前に、顔のほてりをさましてしまおう。廉造に体をあずけたまま、小さく深呼吸をして目をつむった。





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