「びゅーん」





わたしと晋助が乗っている自転車は坂道にさしかかった。うわ、風がつめたいなあ。前髪がめくれあがって壮大なおでこがこんにちは。もっとおでこが狭かったらなあ、そしたら表面積が小さくなるから風をたくさん受けないですむのにね、ねえ晋助。




「でこ広すぎんだよ」





頭をうしろに傾けた晋助の後頭部がごつんとわたしのおでこにヒットした。いたいってば。ちゃんと前向かないと事故するよって言ったらまた前を向いた。






「さむいー」

「耳元で叫ぶな」




びゅんびゅん通り過ぎる風の音がうるさい。おまけに寒いもんだから、晋助の背中にほっぺをよせてみた。おっきい背中してるんだなあ。腕は晋助のお腹にまわしてしっかり晋助と密着する。ひっつき虫みたい。





「晋助あったかい」





びゅんびゅんと鳴る風に包まれているのはわたしと晋助のふたりだけ。なんか世界でふたりきりになったみたいだ。まっくらな夜に光る街の明かりがこんなにもきれいに見えたのは初めてだなあ。





「落ちんなよ」




晋助の背中越しに見えたのはもうすぐ終わる坂道。なんだかもったいない気がした。びゅんびゅん、風の音が聞こえる。どうか平地に踏み込んだ瞬間の衝撃で晋助に振り落とされませんように。あ、でもわたし今はひっつき虫だから晋助からは離れないよ。ぎゅっと目をつむって腕に力を入れた。







ま ぶ た



(101112)



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