「私が死んだら隊長は泣いてくれますか」
「そういうアンタはどうなんでィ」
「なってみなきゃわかりません」
「俺もそうだ」
「じゃあ試してみますか」
「てめーにしちゃ名案でさァ」
ちゃり。持っていた刀を構えなおした。「きっと隊長は泣いてくれないんでしょうね」ごうごうごう。屯所が燃えている。「てめーは泣くんだろ、ブサイクなそのツラで」ひゅうひゅう。秋風がせきたてる。「一言余計ですよ」たったったっ。二人同時に走り出す。かきん。刀を交えて一歩退く。その隙にひとつき。あいつの左胸。べちゃり。顔に飛び散る返り血。あ、しくった。急所はずした。ずぶり。俺の左胸。
「た、いちょ…」
女はふっと笑った。なんだよ泣かねーのか。つまんねェ。どさり。倒れたあいつの顔は笑ったまま。どさり。ああ俺ももう立てやしない。
ぺろり。口元についた返り血はしょっぱかった。あいつの心臓は泣いていたんだろうか。握っている刀に反射する自分が見えた。ああ道理でしょっぱいわけだ。顔面涙まみれじゃねーか。
(101023)
泣いているのは俺か
隊長と間諜の女