「今日にでも副長と合流します」
「土方さんは頼りないからなぁ。僕がいなきゃ話にならないね」
いつもの調子でおどけてみても彼女は険しい顔つきでこっちを見てくる。僕は今すぐにでも死にそうな顔をしているんだろうか。
「こんな病で床に伏せるなんて情けない話だよ」
「組長のぶんまで働いてきます」
「僕はこの病、今すぐ君にあげたいところなんだけど」
「奇遇ですね、私も欲しいです」
彼女の言葉を聞いて驚いた。まったくこの子は何を考えてるんだか。嫌味にも程がある。
「ひどいなぁ」
彼女は悲しそうな顔をした。目には涙が溜まっているのが見え見えだ。泣きたければ泣けばいいのに。
「君は…っ」
話そうとすれば咳が出た。体に居座る病が僕の邪魔をする。彼女が必死に背中をさする。なんて心地よいことか。でもその手を払いのけねばならない。彼女にこの病をうつすわけにはいかない。
「君にうつっちゃうから、やめて」
そう言うとまた悲しそうな顔をした。涙が今にも溢れそうだ。なんでそこまでして我慢するのかなあ。
君は随分と可愛くないねと言えば「放っておいてください」の一言で返される。本当に可愛くない女の子だ。そのくせ目に涙なんて溜めている。千鶴ちゃんのように泣けばいいと言えば「私は泣きません」の一本張り。気の強い女を演じるのもそろそろやめたら。僕には最初からお見通しだよ。死ぬ前に君の泣き顔が見てみたいなんて言えば君は泣いてくれるかな。きっと悪趣味だと言われるだろうなあ。
「素直にならないと損をするよ」
「その言葉、そのまま組長にお返しします」
予想外の返事に腰を抜かした。君もお見通しってわけだ。僕らながい付き合いだもんね。なんだかすごいや。
「僕は素直だし、何の損もしたことないよ。唯一あるとしたら、この病にかかったことくらいかな」
彼女はうんともすんとも言わずに手元を見ていた。「もう行きます」もっといてほしいのになあ。土方さんの下で働くくらいなら組長の看病に徹してほしいものだ。もちろんそれは言えるはずないけれど。
「僕も行きたいなあ」
「じゃあはやく治してください」
「できるものならそうしてるよ」
治るものなら、こんなものはとうに治している。治してまた君に背中を預けて戦っているだろうに。
戦が終われば、また来ます。彼女は頭を下げて立ち上がった。次なんてないことは分かっているくせに。戦が終わる頃には僕は既に死んでいる。なんて嘘が下手なんだろう。それだけ嘘が下手となるともはや可愛いくらいだよ。
「君は可愛くないうえに嘘も下手だね」
最後までお互い素直じゃなかった。僕ららしいと言えば僕ららしいけど。そうだなあ唯一損をしたというなら、君の目尻に溜まっていた涙を拭えなかったことかなあ。