「僕はこの病、今すぐ君にあげたいところなんだけど」
「奇遇ですね、私も欲しいです」
「ひどいなぁ」
ひどいのはあなたの方ですよ、組長。いつもなら斬るよとか言って私を脅すのに、なんでさっきからつらい顔をして笑うばかりなんですか。どうして一人だけ病にかかったりするんですか。
「君は…っ」
ケホケホと咳き込む背中をあわててさする。「大丈夫だよ」私の腕を払いのける手はひどく細い。何が大丈夫だ、今にも死にそうなくせして。「君にうつっちゃうから、やめて」さっき私にうつしたいって言ったくせに。構いませんよ、うつしてくださいよ。そうすれば私は組長と一緒に死ねるのに。組長は寂しい思いをしないで済むのに。
「君は随分と可愛くないね」
「放っておいてください」
あの子みたいに泣いたら?きっと千鶴のことを言ってるんだろう。わんわん泣いては泣き疲れて、今は寝ている始末だ。
「私は泣きません」
泣いたって組長は助からない。そんなことは分かってる。それに本当は優しい組長のことだから、心を痛めてしまうのも手に取るように想像できる。
「素直にならないと損をするよ」
「その言葉、そのまま組長にお返しします」
「僕は素直だし、何の損もしたことないね」
唯一あるとしたら、この病にかかったことくらいかなと続ける組長は嘘が下手なこと。素直に死にたくないと言って私を抱きしめればいいものを。そうすれば私はあなたの腕の中でうんと泣けるのに。好きだと声が嗄れるまで言えるのに。
「もう行きます」
「僕も行きたいなあ」
「じゃあはやく治してください」
「できるものならそうしてるよ」
「…戦が終われば、また来ます」
頭を下げて立ち上がる。「君は可愛くないうえに嘘も下手だね」まったく、そんな可愛げのない女に惚れてたのはどの組の組長でしたっけ。最後まで嘘が下手なのはどっちだか。
ぴしゃりと襖を閉めると苦しそうな咳がきこえた。我慢していたものが頬を伝った。