「半兵衛さま、」
「ああ、君か」
「お体のほうは」
「昨日と何の変わりもない」
「そうですか」
あれほど半兵衛さまを蝕んでいた病は急におとなしくなった。回復の兆しだと誰もが思った。けれど半兵衛さまが戦地に立つことは二度となくて。日に日に顔色が悪くなっていく半兵衛さまを見て、そのわけを悟った。
「僕はもうながくない」
「でしょうね」
「率直だなぁ君は」
「慰めてほしいですか」
「もってのほかだね」
半兵衛さまは力なく笑った。病にこたえることもできなくなるほど半兵衛さまの体は弱ったのだ。きっともう助からない。そんなことは本人が一番よく分かっているんだろう。
「生きろ、なんて言いません」
「君らしいね」
こんな時代のことだ。武士だって女だって子供だって年寄りだって、明日には死ぬかもしれない。それは私も同じ。ただ半兵衛さまは戦いで死ぬわけじゃない。病のせいで床に伏せて死ぬことになる。だから彼には尚更、あの言葉は残酷になるだけだろう。
「僕は役立たずだ」
「何をおっしゃるのです」
「戦うこともできない」
「半兵衛さまは自分の役目を果たされました」
「どうかな」
半兵衛さまはまたふっと笑った。ずいぶんと薄笑いの半兵衛さま。もう少し上手に笑ってみせてくださいよ。
「僕にはまだ役目があるはずだ」
「でも、」
「秀吉と約束した」
「……」
「天下の夜明けを見ると」
「半兵衛さま」
「戦で死ぬことも許されないなんて」
ああ半兵衛さま、半兵衛さま。そんな苦々しそうな顔をなさらないでください。いかないでください。私をおいていかないで。
「君に僕の役目をゆずる」
人任せだなあ半兵衛さまは。私に任せるくらいなら自分でやってくださいよ。半兵衛さまの役目は半兵衛さまにしか務まらないのに。私がそんな指図に従うとでも思いますか。ねえどうして何もこたえてくれないのです、半兵衛さま。目が霞んでよく見えないです。
「あとは頼むよ」