「死んでください土方さん」
「お前もとうとう総悟の仲間入りか」
「いいから死んでください」
「頭イカレちまったか」
「イカレてません」
襖の隙間から夕日が覗いて見える。橙色の光が彼を照らしてきらきらと黒髪が輝く。
「俺お前に何かやったか」
「なんにも」
「じゃあ何だってんだよさっきの」
「一人はいやです」
「は?」
「土方さんが帰ってくるのをずっと待ってるのはつらいです」
言ってはいけないことを言ってしまった。そう思ったときにはもう遅い、馬鹿だ私。土方さんは呆れたような顔をした。
「だから俺に死ねってのか、お前はどんだけ単純な頭してやがる」
「真面目に考えた結果です」
「馬鹿なりに考えたってわけだろ」
本気で言ってるのに土方さんはいつもこうやって笑ってはぐらかす。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思う。けれど現実はそういかないものだ。もしかすると今日こそ夜襲がおこるかもしれないし明日には戦に駆り出されるかもしれない。常に死と隣り合わせなのだ、彼らは。
「いつどこでどうやって死ぬかわからないじゃないですか」
「だったら何だ」
「最後くらいは土方さんのそばにいたいです」
「だから今から死んでくださいってのは聞かねーぜ」
「意地悪だなぁ」
「意地が悪いのはどっちだ」
「土方さん、」
ただみんなの無事を祈って帰りを待ってるだけの身のつらさをご存知ないでしょう?つらいんですよ、すごく。みんなが帰ってくるのはいつかいつかと身を焦がす思いで夜も寝られないんです。静まり返った屯所はすごく気味が悪くて落ち着きません。一向に消費されないマヨネーズが冷蔵庫から消えないのも気味が悪いものですよ。このままみんなが帰ってこなかったらどうしようって、いてもたってもいられやしない。
「それで俺たちが帰ってこないことはあったか」
「え?」
「俺たちは絶対帰ってくるだろう」
困ったように笑った土方さんは私の頭に手を置いた。そうだ、この人たちは必ず此処に帰ってくる。たとえどんな深手を負っても私が待っているこの場所に帰ってきてくれる。
「出動先でくたばるなんて真似、許しませんからね」
「安心しろ、俺たちは死なねーよ」
「どうだか」
「可愛くない奴」
土方さんはぐしゃっと私の頭を撫でた。
「でもまァ、お前がそんなに俺たちの帰りを待ってるって言うんなら、尚更くたばるわけにはいかねーな」
また一段と仕事に精が出るぜと言うなり彼はどこかに行ってしまった。結局土方さんを殺すことはできなかったなぁ。でも理由はないけれど何だか安心した。あんなこと言っておいて、くたばったら絶対許さないんだからね。私が待ってるんだから、せめて帰ってきてくださいよ。