「うわぁ………」

 中身を見て、麻衣の声は明らかに上擦った。
 ボコボコに寄れているA4のレポート用紙にはミリ単位で細かい文字がビッシリと書かれていて、明らかに狂気染みたものを感じるし。プリクラのように小さい写真は、どれもこれも透子を撮ったものばかりだ。
 何コレ、と麻衣が言いたくなるのも分かるだろう。麻衣がナルを見ると、流石のナルもコレには眉をひそめていた。
 封筒の中身に驚く三人に、透子はなおも続けて自身が不審に感じたという事を語る。

「この封筒だけなら、ストカーなのかと思えたのですが……実は、この郵便が届いた時に奇妙なことがあったんです。」
「奇妙なこと?」

 麻衣の問いに、透子は頷きながら答えた。

「このアパートは外観は少し古いのですけれど、実は防犯用の監視カメラが幾つか設置されているんです。なので、この郵便物が届いた後に、大家さんに確認してもらったのですが………なぜか郵便物が届いた辺りの時間のテープが取れていなくて。」

 アパートの監視カメラは、門を上から撮影するものが一台。一階の廊下から階段の下辺りまでを映しているものが一台。最後に二階の廊下を映しているという物、計3台もあったそう。
 だというのに、その3台全ての記録がなくなっていたそうだ。しかも、奇妙なことに記録がない時間が少しづつズレているのだという。

「門のカメラが駄目になって、回復したと思ったら次は一階のが駄目になっていて。一階が撮れるようになったら、二階が駄目になって。二階が回復したら、また一階と門が順番に駄目になっていたんです。大家さんも不思議がってましたけれど、機械に詳しくない私にもコレが変なことだというのは分かりました。」

 その話を聞いて、麻衣も変だと感じた。森下家や緑陵高校での事件で麻衣もバッチリ体験済みだが、機器類は霊の存在で正常に作動しなくなることがある。ということはこの件もそうなのかもしれない、麻衣がそう考えた時だった。

「そのカメラのデータは、まだ残っていますか?」
「はい。大家さんが保管してくれています。」
「拝見してもよろしいですか?」

 今までこの依頼に興味の欠片もなかったナルが、これに食いついたのだ。麻衣は目を見開いて、ナルを見る。一見、先ほどと変わらない無表情のナルだが、麻衣には分かった。今のナルの目は"久しぶりの案件"に、僅かな喜びの色を帯びていた。
 こんなナルの目を見るのは久しぶりだ。そして、ナルがこんな目をする時高い確率で"当たり"なのだ。もっとも、ナルの当たりは麻衣にとってのハズレなので、全く喜ぶことが出来ない。
 もしもホンマモンだったら、どうしよう。怖い思いをするのは嫌だ、と麻衣は思う。けれど、透子の手前それを出すこともできない。グラスの麦茶を飲み込んで、麻衣は嫌な予感を誤魔化した。


 さて。透子の部屋にテレビはないということなので、麻衣達は近所にある大家の部屋を借りて、映像を視聴することになった。
 大家である中田さんは初老の男性で、凄く気さくな良い人だ。麻衣達が事情を話すと心よく部屋へあげてくれたし。しかも、ナルやリンに自分の部屋を貸すと申し出てくれたのだ。
 調査には調査の拠点となる「ベース」という場所の確保が必要になるが、透子の部屋は狭すぎて設置できないし。アパートもまた、中田が確保している一階の一室を除き、入居者がいたのだ。もしも彼の申し出がなければ、SPRはベースの確保に苦労しただろう。麻衣達はありがたく部屋を貸してもらうことにした。

「ありがとうございます!」
「いえいえ、この件は私も不安に思っていたことなので。それに、お若いのに立派な事務所を構えていらっしゃる探偵さんが来てくださるなんて!此方としても、とても心強いです。」

 麻衣達は探偵ではなくゴーストハンターなわけだが、ナルが気にしていなかったため、麻衣もこの間違いを訂正しなかった。否、中田のよほど参っている様子に「自分達はゴーストハンターです」と言えなくなった、という方が正しいか。
 ゴーストハンターなんて知名度のない職業よりも、探偵の方が一般的に信頼度があるだろう。信じる藁はなるべく立派な方が心労も減るだろう。「任せてください」と麻衣は胸を張った。

「お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 社交辞令の挨拶もそこそこに、と言ってもナルは自己紹介しかしていないが、ナルがファイルを片手に質問を結構した。

「あの規模の建物に監視カメラ三つは大分多いように感じましたが、設置の理由は?」
「あぁ、そのことですか。実は、ここ数年前からこの近辺の市で女性の失踪事件が多発しているのです。警察は家出だということで対応していましたが………」
「貴方はそうは思っていない。思えないだけの理由があった、ということですね?」

 ナルがそう言うと、中田は何かを思い出すように苦しそうに目を伏せ、そして首を縦にふった。

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