そしてその週の日曜日。麻衣達SPRは、依頼主のお宅にお邪魔していた。そこは、都内から程近い所にある学生街の一角。学生用に貸し出されているのだろう、少し外観の古い二階建てアパートだ。アパートの雰囲気にはミスマッチな黒塗りの車で乗りつけたSPRのメンバー(今回は麻衣、ナル、リンの三人のみだ。)を、門の前に立っていた透子が笑顔で迎えてくれた。 お互いに軽く自己紹介をして、建物の中へ入る。

「此処が、私の使っている部屋です。狭い所ですが………どうぞ。」

 そう言って通されたのが二階の202号室。台所が備え付けてある板間と、畳の寝室の二間からなる2DKの部屋だ。狭いが風呂も付いているそうだ。
 麻衣達は畳の部屋へあげられ、座布団へと促された。リンは早速傍聴用のノートやファイルなどを準備し、ナルはナルで無表情のまま座っている。麻衣は、お茶を淹れるという透子を手伝おうとしたが、やんわりと断られて手持ち無沙汰だ。

 特にやる事のない麻衣は、なんとなく部屋の中を見渡す。あまり私物のない部屋には、卓袱台や麻衣の腰ほどの小さな本棚くらいしかない。透子が女子大生だと聞いていたため、麻衣は思いっきり女の子らしい部屋を想像していたのだが、実際は想像よりもずっと小ざっぱりと部屋だったというわけだ。
 けれど、それがお洒落ではないかと聞かれると違う。木目のコックリとした焦茶色に合わせた家具は、部屋に落ち着きをもたらしていて。座布団などの小物はレトロな雰囲気で可愛らしいものだ。麻衣は素敵な部屋だと思う。
 気になるのは、窓にかかったカーテンくらいか。そのカーテンはノッペリとした黒い色をしていて、一目で重そうな生地に見える。この部屋の温かみのある空気にはもの凄くミスマッチだった。

「そのカーテン、あまり似合わないでしょう?」
「え、いえそんな事はない………と思いますよ。」

 麻衣がカーテンを見ていると、お盆を持って戻って来た透子がそう言った。慌てて麻衣は否定したが、透子には分かっているようで「いいのよ。」と苦笑いされてしまった。コレは、設置した本人でも似合わないと思っているのだろう。

「どうも誰かが覗いているような気がして。ほら、この真っ黒いカーテンなら部屋の中の様子が分からないでしょう?」

 透子がそう言うのを聞いて、あぁと麻衣は納得をした。確かに舞台の袖幕か?と訊きたくなるような生地の厚さだ。これだと部屋の中の光ですら通さないかもしれない。
 すると、今まで黙っていたナルがファイルを片手に口を開いた。仕事を始める、ということか。麻衣には何故か邪魔をするな、という視線が寄越された。そこからは事務的な調子のナルの質問が繰り返される。

「視線を感じるという事でしたが、それはいつ頃からですか。」
「本当は、もっと前々からあったのかもしれませんざ………三ヶ月前に郵便物が届いて。その内容が内容だったので………」
「その郵便物が届いてから、視線が気になるようになった、と?」
「はい。これが、その郵便物なんですが。」

 おずおずと透子が卓袱台に乗せたもの、それはA4サイズの大きい茶封筒だった。今までそれはビニール袋に入れられ密閉されていたのだが、こう出されるとその臭いがよく分かる。
 なんか、こう生臭いような青臭いような。とにかく臭い。麻衣は依頼者の前だということも忘れ、思わず鼻を摘んでしまった。リンも僅かに眉を寄せている。因みにナルはいつも通りだ。

「中は何なのですか?」
「写真と、あと手紙です。」
「麻衣。」

 麻衣の事を見もせずに、ナルが麻衣の名前を呼ぶ。これは"中身を出せ"という命令だ。結局、ナルもこのブツに触るのが嫌だと言うことか。
 たった一言でそこまで理解できてしまう自分に、麻衣は悲しくなった。最初は一度限りのバイトで終わる関係だった筈なのに、何時もの間にかこんなに長く付き合いがある。しかも恋愛的発展など皆無。悲し過ぎる。

 しかし、麻衣には自分の運命を恨んでいる時間はない。何故なら、あんまりノロノロと行動しているとナルの機嫌を損なってしまうからだ。
 麻衣は、素手で触るのも憚られる臭いなので、ビニール袋を手袋代わりにして、茶封筒の中身を引っ張り出した。

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