弥三郎と一緒に食卓を囲む。思えば、誰かと食べる朝ごはんなんて久しぶりだ。
 瞬の父は転勤族で大体家にいないし、母親も祖母も祖父も他界しているし。そのせいで、こうして誰かと朝ごはんを食べる機会なんてそんなになかったのだ。

「これ本当の本当に瞬が作ったの?」
「なんだ?疑ってるのか〜?」
「えっ違うよ。すごいなーって思ったの!」
「弥三郎は料理したことないのか?」
「ないよ。おままごととか好きだから、お料理もやりたいなーって思ったんだけだ、父様が駄目だって………」

 父に料理をしたいと漏らしたばかりに、叱られたと言う弥三郎。彼の父は、まだ小さい弥三郎に料理をさせるのは危険だ、と考えたのか。はたまた亭主関白的考えで、男に料理は不要だと判断したのか。
 どっちにせよ、料理体験したかった弥三郎には不服の結果なんだろう。それを表すように、弥三郎は唇をプンッと尖らせて不満そうな顔をしていた。
 その可愛らしい不満顔に、瞬は微笑ましさを感じる。

「じゃあ、今日の夕飯は弥三郎に作ってもらおうかな〜」
「えっ!」
「一応俺も手伝うつもりだけど、今日は弥三郎がシェフだな。」
「しふ…?」
「シェフ、料理人って意味だよ。よろしく頼んだぞ、シェフ!」
「えぇ〜お料理なんてしたことないよ?!」

 弥三郎は無理だと慌てているが、そんなの関係ない。瞬はもう弥三郎に料理を任せようと決めてしまっていた。
 だいたい、料理だって何だって『初めて』の時はあるわけだし。失敗なんて恐れてたら始まらない。
 それに、子供のうちに色々な体験しとくのは大切だ…と瞬の父は言っていた。

「大丈夫だよ、弥三郎ならできるって。それより、ほら。飯が覚めるから早く食べな?」
「まぐっ」

 オロオロしてご飯を食べる手が止まってしまっている弥三郎の口に、ポイッと玉子焼きを放り込む。
 まだ小さい弥三郎のために、いつもより甘く味付けした玉子焼きだ。これで弥三郎の緊張が少し解れたらいい、と瞬は思う。
 …瞬だけかもしれないけれど、緊張した時に甘い物を食べると少しだけ身体がほぐれる気がするのだ。

 それにしても、なんと賑やかな朝食なんだろうか。前に言ったかもしれないが、瞬は大体いつも一人きりで朝ご飯を食べていたのだ。
 一人で黙って食べるご飯は、砂を噛んでいるみたいで全然楽しくなかった。瞬には、美味しいと思えなかった。
 でも今、瞬はすごく楽しくご飯を食べれている。こんなに美味しいご飯も久しぶり。

 それもこれも弥三郎のおかげか。瞬は弥三郎に少しだけ感謝した。


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