くらげはうみのおほしさま。
 くらいなみのなかでキラリとひかって、ふねのみちしるべとなってくれるのです。



 瞬が小さい頃、祖母は夜寝る前に必ず絵本を読んでくれた。何回も何回も、せがんで読んで貰っていたものだ。そして、いつも途中で眠くなって寝てしまっていた。祖母の声の中で眠りに落ちるのは、すごい安心感があったのを覚えている。

 自分の寝室として使っている部屋に敷き布団を引いた瞬は、そのことを思い出した。部屋にある本棚を見れば、あの頃読んでいた絵本達が埃を被り眠っていて。敷き布団の上では、まだまだお眠ではない弥三郎がゴロゴロと転がり遊んでいた。ふむ。

「おい、弥三郎ーあんまし転がるな。タオルケットがぐしゃぐしゃになんだろ。」
「だって、まだ眠くないんだもん………」

 瞬に言われてコロコロするのは止めた弥三郎だったが、代わりに頬の餅がプク〜っと膨らんでいた。子供は昼間に思いっきり遊ばせとかないと寝付きが悪いとも言うものだし、これは予想できていた。
 瞬は本棚から、テキトーな一冊を抜き取ると、布団の上に胡座をかいた。弥三郎を手招きすると、彼は不思議そうに寄って来る。そのまま抱き上げて、足と足の間に乗せた。弥三郎は今、瞬の胸板を背もたれにした椅子に座っていることになる。

「今から、絵本読んでやるから。読み終わったら寝ような。ほれ。」
「わぁ、竜宮城みたい!」
「おーそうだな。」

 瞬が弥三郎に絵本の表紙を見せると、弥三郎が目を輝かした。竜宮城みたいだと弥三郎が指差した絵本は、綺麗な海の絵が描かれていた。
 黄色赤色オレンジ色の華やかなイソギンチャク。波間に揺れる緑の衣は海藻で、それらの間を縫うように泳ぐ魚達。そして、主人公の、お星さまのように小さいクラゲの子。確かに鮮やかで美しくって、この世のものには思えないかも。

 けれど、表紙を開くと、そこは一転。真っ黒い海の絵になる。「まっくろ。」と恐々した声で呟く弥三郎に、瞬は「これは、深海。海の一番下にあるところだ。」と説明した。深海はとっても深い場所にあるから、お天道様の光が届かない。だから、真っ黒黒助。
 

「じゃあ、読むぞ。えーと、『むかしむかしのお話です。うみのそこでクラゲ子どもがくらしていました。………』」

 本を読み始めてすぐに、下から寝息が聞こえて来た。弥三郎を見下ろせば、すやすやと寝てしまっている。こんなに早く寝付くなんて、見た目以上に疲れていたのだろう。
 でも、いくら弥三郎が人懐っこくて、瞬に懐いてくれたからとしても。全く知らない場所で迷子になっていたのだから、不安に思わないわけがない。
 弥三郎と同じ年の頃の瞬だったら、間違いなく泣き通しになっていただろうから。その心細さは分かる。ようは、こんな環境で、疲れないわけがないということだ。

「おやすみ、弥三郎。」

 瞬は弥三郎の頭を撫でる。瞬よりもずっと小さな大きさだ。こんなに小さいと、沢山の悩みごととか不安なこととか、抱えられないのではないか。もしかしたら、不安が重すぎて、頭がフラフラしてしまうかもしれない。
 その時は、自分が支えてあげられればいいな。今まで、瞬の周りの大人がそうしてくれたように。そう思った瞬は、弥三郎を布団に寝かせて。パチリと電気を消した。
 窓の外でも、星たちが「おやすみ」と言っていた。

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