日差しは暖かいけれど、カーテンを揺らす風は肌寒い秋の午後。猿飛佐助と葉太は学校の課題を仕上げるために、葉太の家に集まっていた。とは言ってもすでに課題は終わってしまっていて、今はただ寛いでいるだけだ。
 暖かい紅茶を口にしていた佐助は、目の前で鞄から"今日のお八つ"をいそいそと取り出す葉太を見ていた。本を食べる妖怪ちっくなこの友人はお八つを絶対に欠かさない。ようは食い意地の張った奴なのだ。まぁ、自分で食べる本以外の所謂ちゃんとしたお菓子も持ち歩いていて、佐助もご相伴にあずかる事も多いのだったが。
 今日の葉太のお八つは何だろう。彼の手元を見ると、其処には随分年季の入った絵本があった。本の角は手汗で茶色く染まり、また丸くすり減ってもいる。パッと見で、そうとう古い事が分かる。いくら葉太が文学少年という名の妖怪だとしても、この本を食べても大丈夫なのだろうか。佐助は心配にった。

「それ、食べて大丈夫なの?」

「流石に賞味期限切れだと思うなぁ。これは、佐助に見せようかなぁって思って持ってきたんだよ。」

「はい?」

 自分は絵本を読んで喜ぶような年齢でもない。だから、佐助は意味が分からず首を傾げた。そんな佐助に葉太は絵本を手渡し、背表紙を見るように言ってきた。よく分からず言われるまま、背表紙を見た佐助は小さく驚きの声を上げる事となる。

「これって、あの図書館の蔵書じゃん!」

 背表紙にあったのは、小さい頃よく佐助が通っていた図書館の判子だ。赤い判子、それがこの絵本が図書館の所有物であった事を示している。でも佐助の記憶では、その図書館は既にもうなくなっていた筈だ。という事はこの絵本は借り物ではないという事になる。

「どうやって手に入れたわけ?」

「古本屋さん。懐かしいでしょ?」

 確かに懐かしいと思う。だって、あの図書館はもう何年も前になくなったのだから。佐助は葉太の言葉に頷きつつ、本を開いた。昔は両手で抱えるようにして持っていた本は、片手で持てるほど小さく感じられた。
 けれど本の中身はあの頃と変わっていない。魔女が悪さをする所も、王子が奮闘する所も、内容は全くもって佐助が覚えていた通り。この絵本を読んでいた頃から随分経っていて、自分と葉太はこんなにも変わったというのに。そう思うと、この本は懐かしいだけでなく切ないものに思えてしまうから不思議だ。

「あれ、最後のページが破られてる。」

「あーそれ小さい頃の僕がやったやつ。ほら、覚えてない?佐助もとばっちりで怒られたんだけど。」

 ………そう言えばそんな事があった。佐助が見ると、眉を下げて笑うという葉太にしては器用な表情で、葉太は笑っていた。一応、自分が悪かったという自覚があるのかもしれない。その自覚があるのなら、今までに佐助が葉太によって巻き込まれた騒動の数も反省していただきたいものだ。
 まぁ、葉太の事だから深く反省なんてしないのだろうけれど。そう考えて、佐助はため息をついた。葉太といいお館様や自分の主人といい、どうして自分の周りには騒動を起こすのが好きな人が多いのだろうか。


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