03 カネキ

「金木クンはあの店のことを知ってるかい?え、あの店が何のことだか分からないって?そうか、じゃあこの魔猿が教えてあげようじゃないか。」

 古猿さんが、教えてほしいとも言っていないのに勝手に教えてくれたのは、不思議なめし屋の話だった。
 東京の喰種達に知らない者はいないとされる、その都市伝説。それが『喰種でも食べられる食べ物を出す店がある。』という噂。
 喰種が人間の肉と珈琲しか口にできないのは、元人間の金木だって身をもって体験してきたわけだが。だから、その噂を聞いた時は吃驚すると同時に疑ってしまった。

「え、それって喰種レストランみたいに、人が食べ物として出てくるってことですか?」

 金木にとって記憶に新しく、そして教えて思い出したくない凄惨な記憶である、ソレを能力に浮かべしまい。金木は顔を青くした。けれどそんな金木の言葉を聞いて、古猿は「違う違う。」と手を左右にしながら否定した。

「その店で出てくるのは人間が食べるような、ちゃんとしたご飯なんだよ。だから、喰種の中で噂になっているんだ。」
「そ、それは本当ですか?!」
「さぁ?行ったことがないから真相はなんとも…ただ、ここの常連さんからそういう店があるって話は聞いたことがあるよ。」
「そうですか………本当にあるといいですね、そんな店が。」
「もしあるなら、アンテイクの皆で行ってみたいよねぇ。」

 また人間の食べ物を食べられるかもしれない、食事をする度に自分は化け物だと懺悔しなくても済むかもしれない。そんな金木の淡い期待は、定かでない噂の前に霞んでいってしまった。
 けれど、金木がこの噂を後々まで覚えていたのは、もしかしたらこの店の存在に一種の希望をかけていたからなのかもしれない。

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テーマ「人外ファンタジー」
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