短編集 | ナノ



「ナイは、なんでゴーストタイプが好きなの?」
 マツバは、何となく気になったので聞いてみた。
 因みに、マツバ自身は「好きだから、好き。」というタイプで、特に理由はなかったりする。強いて言うならば、自分に馴染むから。昔から一緒にいたから、という理由くらいか。
 マツバにとってゴーストポケモンは、空気と同じくらいに当たり前の存在で、酸素と同じように必要な者だった。

 けれどゴーストタイプ括りをするトレーナーには、マツバ以外のタイプの人間もいてしかり。例えば、オカルトマニアなんかがそうだろう。彼らもゴーストタイプのポケモン使いだが、マツバとは違ったアプローチの仕方をしている。
 だから同じゴーストタイプ使いとして。マツバはナイがどんな気持ちで手持ちに接しているのか、少し興味があったのは事実だ。

 ゴーストを撫でていたナイは、ふと手を止めてマツバを見つめた。きょとんとした様子の瞳は、質問の意味が分からなかったのかもしれない。
「ナイくらいの歳頃の子って、ほらゴーストタイプのポケモンを怖がるだろ?だから、気になったんだ。」
 マツバがそう言えば、ナイも「あぁ」と納得したような声を挙げていた。彼女自身にも、自分が少し変わっているという自覚はあったらしい。
 そして、さして何でもないように答えたのだ。
「だって私が幽霊になっても、ゴーストポケモンなら一緒に遊べるでしょ?」
 幾度も死の淵を彷徨って来たナイにとって、死という言葉は身近なものだったのだろう。大人でも死を恐れる者は沢山いるというのに、だ。
 大人になれないかもって、看護師さん達が噂してるのも知っている。それに今まで何度も幽霊になりかけた。と、ナイは朗らかに笑う。
「死ぬのは怖いけど、幽霊になっても友達がいるなら寂しくはないと思うの。」
 彼女は控え目に呟いた。

 その様子にマツバは思わず、閉口してしまう。だって、まさかナイが。自分より小さいナイが、そんな事を考えていたなんて今まで知らなかったんだ。
 それに。どこか浮世離れした、ともすれば彼岸へと連れて行かれてしまいそうな雰囲気を持っているナイだ。今の台詞がもし彼女の本心だとするのなら、本当に連れていかれてしまうかもしれない。
 マツバは、彼女が霧のように雲散して消えてしまうのではないか、と不安にかられた。マツバもゴーストも、同じようにナイを見つめた。なんだか今にも、ナイがいなくなってしまいそうな気がしたのだ。
「大丈夫だってば、マツバくんと話すのも好きだから。幽霊になんて、進んではならないから。」
 二人に心配そうにされて、ナイは焦ったらしい。誤魔化すように、早口でそう言った。
 そして、言った後に咳き込んだ。喋り過ぎたのだろう、そもそもナイは今日も病気だったのだから。
「その通りだよ。幽霊になるなんて、冗談でも言わないでくれないかな。ナイ。」
 ナイに深く布団を被せて、マツバは溜息をつく。それでも、多分反省なんて爪の垢くらいしかしていないだろうナイに、マツバは少しだけ怒ってみせたのだった。

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