短編集 | ナノ



 また、ナイが風邪をひいた。しかも、今回は肺炎にまでグレードアップさせてしまったらしい。
 そんな話を人伝えに聞いた日には、気が気でなかった。何時もの修行も早めに切り上げ、さっそく見舞いに向う。
 マツバには千里眼という超能力があり、故に今のナイの様子も透視できたりするわけだが。しかし、ナイは本当にすぐに死にかけるから、心配なのだ。
 彼女には、「今世の別れ」が冗談で通じない。それが本当に実現しそうで怖い。少しでも目を離せば、掻き消えてしまいそうだから。



 マツバが病室についた時、其処にはナイしかいなかった。ナイを溺愛している彼女の両親は、倒れたナイを一人にしないだろうに。
 ただの風邪の時でさえ、ナイの側を離れない人達が、今日に限っていないのは少し奇妙な事に思える。

 そんな風にマツバが考えているなんて露知らず。咳を小さくしながら、ナイは嬉しそうにマツバに話しかけて来た。
 きっと、父親も母親もいなくて寂しかったのだろう。そんな様子がありありと見て取れる。
 マツバは、彼女と他愛ない会話をしながら、それを感じていた。
「マツバくん、ゴーストおきてる?」
 咳のしすぎで、ナイは掠れた声になってしまっていた。これでは苦しいに違いないと、マツバは喉を潤すためのお茶を、ナイに手渡す。
「今は、まだ昼だからね。ゴーストは寝てるよ。」
 そう返せば、ナイはしょんぼりとした様子だった。聞けばナイのムウマも寝ていて、昼間はずっと暇だったのだそうだ。

 マツバがいるから良いだろう、という人もいるかもしれない。確かにそうだ。そうなのだが、それ以前にナイはゴーストタイプのポケモンが大好きだった。
 人というのは不思議なもので、好きな者と一緒にいると、痛みを忘れてしまう。幼少から寝込む事が得意だった、ナイはコレをしっかりと知っているのだ。
 今、風邪を引いているナイは心身供に弱っていて。だからこそ、本能的にその辛さを軽減させようとしているのだろう。

 ナイには、元気でいてほしい。そう、マツバは思う。
 このまま落ち込んだままでは、良くなるものも悪くなってしまうだろう。それは、マツバも嫌だ。
 だから。ゴーストには悪いけれど、ゴーストの方がムウマよりお兄さんなわけだし、起きてもらおうじゃないか。

 無理矢理起こされたゴーストは不満気だった。当たり前か。マツバだって、ゆったりと寝ていた所を起こされたら、こうなるだろう。
 しかし、流石のお兄さんゴーストである。ナイが具合悪しと見ると、自分から遊び相手を買って出た。マツバの他の手持ちでも、こうはいかないだろう。
 大好きなゴーストタイプのポケモンと遊べて、上機嫌なナイ。彼女を微笑ましく見ているうちに、マツバはふとした疑問を抱くのだった。

 ゴーストタイプ。つまり、幽霊や怨霊の属性のポケモンは、幼い子供には怖がられる事が多い。
 実際、ナイと同じ年頃の子らは、ゴーストタイプのポケモンを苦手としているし。大人でも、ゴーストタイプだけを専門にしているトレーナーは少ないくらいだ。
 ゴーストタイプには、矢張り「死」や「呪い」と言った、マイナスイメージが付きまとうからなのだろう。実体は、少しお茶目なポケモン達であるのを、マツバは知っているのだが。

 まぁ、そんな風にゴーストタイプを忌避するきらいは、あるのが事実なわけだ。
 そして、そんな中で、ナイはゴーストタイプ好きの少し変わった子供である。(そもそも、年の離れたマツバとナイを引き合わせたのも、ゴーストタイプ繋がりだったりした。)
 それに、マツバ自身は神職の末裔として生を受けた事もあり、呪いやなんやで昔から、ゴーストタイプと一定の付き合いがあった。それを考慮すると、そういったゴーストタイプとの関わりのない、ナイの特異性が際立って見える。
 彼女は、一体なぜゴーストタイプのポケモンが好きなのか。
 仲の良い友人の事も、マツバは案外知らないのかもしれなかった。

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