短編集 | ナノ



 この学園は県下いや、全国でも指折りの名門校であり。しかも、"勉強だけでは駄目なのよ"とでも言うかのように文武両道。つまり、部活動も盛んな校風なのだ。そして、その自由な息吹の中で我が"美食倶楽部"も生まれたそうで。たとい毎年の部員数が三人にも満たないような部活でも存命できているなんて、校風様々である。
 さて、今年度部長を継いだ小早川秀秋は、そう言った理由もあって部員募集も何処吹く風。のんびりと鍋を作って、毎日毎日美味しい思いをしていたのだ。
 ところが。つい先日、その毎日恒例の鍋パーリィに新顔が加わったのだ。それが、新入生であるナイ。
 彼女が加入した事で、小早川秀秋通称金吾の日常は少しづつ色を帯びて行くのであった。多分だが。



 今日も矢っ張り美食倶楽部は鍋パーリィ。グツグツと鍋蓋の下から嬉しい香りが、立って来て。そうして彼は、鍋の食べ頃を知るのだ。因みに今日は、海と一体化する事をコンセプトにしてみた磯鍋である。
 離れた場所でレシピ集を読んでいたナイを、呼んで。金吾は幸せな気持ちで、箸を取る。一人で食べる鍋はも美味しいに決まっているが、二人で食べる鍋はもっと美味しい気がする。もっとも、ナイが金吾と同じように感じているのかは分からないのだが。それでも、金吾はナイとこうして鍋をつつくのが楽しみなのだ。

「今日も鍋なんですか?」
「うん!磯鍋って言う、魚の味を引き出すのに売って付けの鍋物なんだよ。美味しそうでしょ!」
 ナイの不満気な雰囲気にも気付かずに、にこにこと満面の笑みで答えてしまう辺り。金吾が、三年生になっても周りから弄られ続ける所以なのだろう。本人に自覚が無い分、だいぶ手遅れだ。可哀想に。
「小早川先輩、わたし鍋には飽きたって昨日言いませんでしたっけ。その時、先輩も明日は鍋じゃないメニューにしようって言ってくれたじゃないですか。」
 そんな事言ったかな?慌てて昨日の記憶を思い出そうとしたけれど、どんなに頑張っても昨日のキムチ鍋しか思い出せない。しかも、困った事に…金吾がこの手の失敗をするのは毎度の事であったりするのだ。これでは、いくら後輩として遠慮しているであろうナイでも物申したくもなるだろう。

「もう数ヶ月も夕食が鍋なんですよ?いくら味付けが違ったとしても、もう辛いんです。作るのも食べるのも。そろそろ、別の料理が作りたいです!」
「そ、そうなの………?」
 普段あまり感情を表に出さないナイが、食器を揺らす程の勢いで立ち上がった。それが、どれだけ金吾を驚かせた事か。ここでようやく彼は、彼女がご立腹であることに気づいたのだから。困ったものである。

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