短編集 | ナノ



 歓声の中、生まれた赤子はグリーンの顔を見てニコニコと笑った。まだ小さい前歯とレッドワインのような輝く瞳の、なんとも可愛らしい赤ちゃんコラッタである。
「グリーン。その子を産湯に入れてあげなきゃ。」
 グリーンの後ろからコラッタを覗き込んだ、姉が言う。産湯、それが生児を入浴させる禊の儀式である事は、男性であるグリーンでも知っている。更に、彼は産湯に使用した湯を縁の下など決められた場に捨てないといけない事まで知っていた。
 のだが、そこが男と女の違いなのだろうか。姉に言われるまで、産湯の事なぞこれっぽっちも考えていなかったグリーンは、当然慌てた。これでは、出産に父親は役立たずと皮肉られようが否定は出来ないわな。知識ばっかで、いざとなったら慌てまくりだもんな。
「湯なら沸かしてあるわよ。ほら、湯加減もバッチリ人肌よ。」
 グリーンやポケモン達がタマゴの応援に精を出していた時、姉はすでにコレを見越していたのだろう。緑色の風呂桶にはぬくいお湯、そして身体を拭くためのフカフカのタオルまで用意されているのだ、完璧だ。
 これだから、姉には何時までたっても頭が上がらない。
「サンキュー、姉さん。」
「ったく、しっかりしなさいよねーこれから、アンタはこのコラッタの親になるんだから。」
 姉には激励の意を込めてだろうが、背中をバシンと叩かれた。地味に痛かったが、でも背中を力ずよく押されているようで勇気付られる。

 そうか、このコラッタにとっては俺が親なんだよな。こんなに頼りなくても、俺が親なんだよな。そうだよな。
「こんにちは、コラッタ。」
 ぎこちない手で抱き上げたコラッタは、グリーンの胸の中で安心した様に目を細める。つられてグリーンも微笑めば、まるで本物の親子が此処にいるかのようであった。

『あいたかったよ、パパ』

 きっとあの時の声は空耳ではないだろう。
 今でもグリーンは、信じている。


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