短編集 | ナノ



 いつからか自分の周りがじんわりと温かくなったことに、卵の中のポケモンは気づいていた。
 身体が寒かった時は何も考えられず、自分が自分であるという感覚さえ持っていなかったというのに。それが今では自分が自分であり、オマケに誰かが自分を待っていることさえ分かるんだ。
 そして、彼女は壁を突き破る。自分の事を待ち望んでいるだろう、誰かの為に。



 大きな拾い物をしてから三日目の朝、やけにポケモン達が騒いでいるのでグリーンは目を覚ました。
 窓から見える冬の朝焼けに、ポッポの黒くて小さい影が悠々と飛んでいるのが見える。まだ、ポケモン達の御飯時には早過ぎると思うのだがーーー寝呆けた回転の遅い頭では、流石のグリーンもそれくらいの事しか考えられなかった。
 そんなグリーンを覚醒させたのは、他でもないグリーンの姉だ。この姉、普段は世界各地を旅しているのだが、今日は偶々この家に帰って来ていていたようなのだ。帰って来ているなら、一言声をかけてくれていいものを。
と、そんな事はどうでも良い。大切なのは兎に角、彼女がグリーンの寝室のドア、無論鍵付きを蹴破った事である。哀れドアは大破し、部屋は一気に風通しが良くなってしまった。
「大変よ!グリーン、卵が孵りかけてる!!」
 まだ朝早くに大声で近所迷惑だとか、よくもドアをガラクタにしてくれたなとか。言いたい事は色々あったのだが、それも彼女の一言で彼方へと吹き飛んで行った。
「本当か!!昨晩の時点なら、まだ孵るまで時間がある様に見えたのに!」
 慌ててベッドから跳ね起き、卵のもとへ駆ける。そして、ウィンディが腹に抱いている卵を見ると。本当だ、パリパリと小さい音を立てて、卵からポケモンが生まれようとしている!
 朝からポケモン達が騒いでいたのは、このためだったのか。成る程、彼等はこの卵の中の赤ちゃんを応援していたんだ。それならば、自分も………

 グリーンが卵の応援に参加してから小一時間。
 卵の中の赤ちゃんは、時折休んだり殻を叩いたりしながら、着実にこの世に生まれ出ようとしていたのだ。

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