短編集 | ナノ



『貴方の子です、育てて下さい。』

 グリーンの手の中でクシャクシャに潰れた紙には、そんなふざけた文字が殴り書きされていた。
 勿論、誤解しないでいただきたいものだが、グリーンは父親になったつもりなどないし。また、そのような諸事も見に覚えがない。
 そして、更に付け加えて言うのならば、グリーンは人間である。間違っても、こんな赤子ほどに大きな卵を生める様な雌とは一緒にはならないだろう。これは絶対だと言い切れる自信がある。

 しかし、今はそんな些細な事は二の次だ。
グリーンは、急いで家へ走りだした。こうして、トキワジムの閉じられた門の前には、紙切れ一つだけが落ちているだけとなったのだ。

「一体誰がこんな酷いことを…!」
 胸に卵を抱え、全力疾走するグリーン。彼は視線を下げて、寂しそうな卵を見た。
 朝方にジムを開けようと向った門に、置き去られていたこの卵。一緒にあったのは、ただの紙切れが一つだけ。毛布にもくるまれず、夜の冷えた空気にさらされた卵は、いまや石のように冷たくて。
 手紙の送り主にはいろいろツッコミたいものだが、それよりも先にまずは殴り飛ばしたい衝動に駆られる。まだ生まれてもいない子に、こんなに寒い思いをさせ、寂しい思いをさせた。この卵に罪はないというのに…それなのに。
 親なら親らしく子供の事を考えろよな!
 たとえ自分の所でポケモンを育てられないとしても、里親を探すとか、兎に角かこんな事をしなくても新しいパートナーは見つけられる筈だ。こんな無責任な行動、トキワジムのジムリーダーとか以前にグリーン自身が許せない。
 家のドアを乱暴に開けて、急いで卵を毛布で包む。そして手持ちのウインディに卵を温めてもらいながら、自分は湯を沸かし湯たんぽの準備を整えた。
「まぁ…あんなに寒い外に放置されていたんだ、最悪の場合もあるかもしれないよな…」
 あまり考えたくないことだが、実際卵は成体のポケモンより遥かに環境変化に弱い。
 もしも、この卵が氷ポケモンならあの状況でも耐えられるだろうが。逆に草タイプなどの寒さに弱いポケモンだった場合は…そう、すでに命を落としている可能性だってあるのだ。
「生きていてくれよ…?」
 グリーンも、グリーンの手持ち達も。この何の卵かも分からない卵が、無事に孵る事を信じているのであった。

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