煉瓦造りの茶の壁に、暖炉の光が赤い影を揺らしている。そこはキッサキのホテルでもなく、ステーキハウスでもない、こじんまりとしたレストランだった。
華美では無いが決して地道でもない、そんな小洒落た雰囲気の店。客も疎らな穴場だし、窓から望む景色には港の大パノラマが広がる…あのデンジもお気に入りの店である。
其処でグラスを片手にオーバはまたまた溜め息をついた。今日一日、通算十二回目であった。
「ナイ〜いい加減、機嫌直せよ〜?」
向かい合って座ったナイは、不機嫌そうにストローをつっついている。因みに彼女は酒に弱い為、ブラッディーオレンジジュースを頼んでいたのだ。
「むーステーキ………」
「魚でもいいだろ?」
「にくー」
にくにくにく…ナイの口から出てくるそれは最早何かの呪文の様に聞こえる。
「いやいや、シンオウつったら海産物だろうが。」
海産物なにそれおいしいの?投げやりにオーバを見るナイ。とにかくジト目である。
せっかくのデートなのに、雰囲気ぶち壊し。オーバは少し泣きたくなった。
彼女、ナイの機嫌がこんなにも悪いのはステーキハウスが臨時休業中だったからだ。
しかも原因は、この街のジムリーダーであるデンジが街を改造中であるため、一部のライフラインが機能していないせいだとか。心の広いオーバと言えど、この時ばかりは我が幼なじみを恨んだものだ。
未だに、ぷぅっと頬を膨らませているナイ。ほっぺたをつついてみたら、仕返しにアフロをぐしゃぐしゃっと混ぜられた。
「ちょ、何すんだ。あーあー髪型崩れた…」
「最初にちょっかい出したのはオーバでしょ。ってか、アフロなんだから髪型も何もないじゃん。」
オーバがナイのほっぺたを引っ張ったり、ナイがオーバーのアフロを引き延ばしたり。
軽い冗談混じりにそんな事をしあう彼等を、馬鹿ップルだなぁと暖かい目線で見守る人達が居たとか居ないとか。
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