短編集 | ナノ



「ステーキが食べたい。」
 何を言い出すかと思えば、ナイはそんな事を口走った。因みに、デート中の台詞である。ナイは何を隠そうオーバの彼女なのだ。
「ステーキィ?」
「うん。サイコロステーキなの、ちょううんまいから!」
 早口でまくし立てるあたり、今回もナイの一存でデート場所が決定しそうである。
こっちの店だよ!と意気揚々に歩いていくナイの背中に、オーバは「相変わらずだなぁ」と溜め息をつくしかなかった。

この所リーグ戦で多忙だったオーバとナイの久し振りのデート。
 …の筈なのだが、ナイが行きたいと言った場所はなんというか、アレだ。
 一言で言うなら、色気が無い。そして、デートにステーキハウス行きたいとか言い出す彼女なんて喧嘩売ってるとしか思えない。
 なんの御冗談でしょうかナイさん、とオーバは聞きたくなった。
 恋人どうしならもっと他にあんだろう。内心、もの凄くがっかりしたのはオーバだけの秘密だ。
 見た目によらず少女趣味なオーバとしては、キッサキシティでホワイトナイトとか、とにかくそんな甘い雰囲気のデートを所望していたのだ。
まぁ、ナイと付き合い始めて今年で通算六年目。この展開は何となく読めていたものだが。
 いや…読めていても実際にやられると地道に悲しい物がある、という事を改めて学習させられた。
仕方無くナイを追うが、本当はまだまだラブラブデート計画を諦めきれていないオーバなのだった。


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