短編集 | ナノ



「ねっ?もみじシャワーより、もっとキレイでしょ?」
 マツバを覗き込んだナイは悪戯気に笑っている。確かにとても綺麗だ、マツバは頷いた。
 今、二人が居るのは空だ。夕暮れ時の美しい茜の空に、二人の間を紫色の雲が流れていった。
 地平線向こうには黒々とした山々が見え、真っ赤な太陽が沈みかけていて。足下のエンジュの街並みには灯りが灯りだしている。
 なんて美しい光景なのだろうか、言葉もなくして見入るマツバにナイは嬉しそうだった。
「この町は、すごく美しいと思う。わたしはエンジュがだーいすきだよ。」
 春の桜もあけぼのも、夏の蛍や清流も、冬の雪も灯りも、勿論秋も。この町が四季折々に見せてくれる表情が大好きだ。
 けれど、
 もしもナイが一人のままだったら…マツバと出会って、友達になっていなかったなら。きっとこの町を好きになれなかったのではないか、ナイはそんな風に言った。
「わたしは、マツバと友達になれたからこの町が好きになれたんだと思う。マツバが教えてくれたんだよ。」
 だからこそ、ナイは此処からの景色をマツバに見せたかったのだ。 突然の告白に、マツバは照れた様に頬を掻いた。何時も何処かふざけた態度のナイに、改めて「ありがとう」などと言われると恥ずかしく感じてしまう。

 それにマツバだってナイという友を得たからこそ、"エンジュの町が好きだ"と迷う事なく言えるようになったのだ。
 どんなに綺麗な景色だって一人だけでは侘びしいだけだ、二人で見たから楽しいのだ。マツバはナイと出会ってから初めてその事を知った。
 ナイはマツバのおかげだと言うが、自分の方こそナイに随分と教えらたんだ。マツバはそう思っている。

「お礼を言うのは僕の方だよ、ナイ。ありがとう、僕の友達になってくれて。」
―――そして願わくば、これからも僕の友達でいてほしい。

 秋の空の上、ポツリと宵の明星が輝きだした時。二人は指切りをする。
 そんな二人の黒い影は、菫色にぼやけた空にぼんやりと溶け込んで見えていた。 

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