さて。それから一年が経ち、また季節が巡って来た。
カサカサと赤い葉っぱを踏みながら、マツバは人を待っていた。あれからナイとよく遊ぶようになったマツバは、こうしてよく待ち合わせをするようになった。見た目にそぐわぬルーズさで、毎度のように遅れるナイを待つのは何時もの事だ。
しかも、今日はナイたっての約束だったと言うのに…言い出しっぺであるナイの方が遅刻するなぞこれ如何に。さほど怒っているわけではないが、マツバの脳内にはそんな台詞が流れた。
足元の紅葉がブワリと舞った。凄い風だ、辺り一面が紅葉の紅で染まる。そして、マツバは彼女の到着を知った。
「キレイでしょ?もみじシャワー」
やはり犯人はナイだ。こんな事は千里眼を使わなくたって分かる。
赤の嵐の中で、ニコニコと笑うナイは無邪気の塊だった。今のでマツバの口に紅葉の葉が数枚入ったのは、彼女の計算外らしい。彼女はただコレが見せたかっただけのようだ。
誉めて誉めて、と頭をぐりぐり手のひらにこすりつけるナイを見ていると、怒るのさえ阿呆らしく感じてしまう。マツバが苦笑いしながら頭を撫でると、ナイは嬉しそうに笑った。
ヨーテリみたいだな。マツバはナイに遠い異国のポケモンを重ねて見た。うん、今は尻尾をブンブン振っているだろう。
「綺麗だね。口に紅葉何枚か入ったけど。」
「おいし?」
「マズい。」
うん知ってる、と答えたナイ。どうやら食べた事があるらしい。と言うか、不味いと分かっていたなら何故訊いたんだ。
「今日はね、マツバに見せたいものがあって来たんだよ。」
マツバが紅葉をぺっぺと口から出したのを見計らって、ナイが言った。彼女が指を動かす度、同じ方向へ揺れる紅葉が一枚空を舞っている。
「紅葉シャワーの事?それなら堪能したよ、苦かった。」
思い出した渋みにマツバが顔をしかめると、「あは」とナイが気の抜けた笑いを漏らす。他人事だと思って、呑気なもんだ。
「違うよ。もっと、いいものだよー」
見たいでしょ?と勝手に決めつけたナイ。しかしそこは年長者のマツバ、小さい女の子であるナイの我が儘くらい許せてしまう寛容さの持ち主だ。
………流石に突然、空へ飛び上がったのには驚いたけれど。
prev / next
(3/4)