人魚という、上は人間の半裸、下は魚の鱗(うろこ)に魚の鰭(ひれ)の成りをした妖怪は。大方、温かい南方の海に生きるものと思われがちだが、
いや、実際に多くはそうなのだが。
されど、北の海に人魚が全く持っていないのかと問われれば、その答えは非なのである。
詰まるところ、その凍てつくような海の中にも人魚はいるのだ。
政宗はそれを知っていた。もう何年も前に、そう彼がまだ幼名だった頃から。
だから、政宗は冬の海を見ると思い出す。
それを、北の海の氷の下にも人魚は住むのだと教えてくれた彼女の事を、思い出すのだ。
たとえどんなに時が経とうとも変わらず、あの日の鮮やかな美しさは彼の脳裏に焼き付いたままで。
あぁ、彼女は今もあの白い氷のすぐ下を、ぬるりぬるりと天井を沿うようにして泳いでいるのだろうか。
もう二度と会うことは無いと分かっているのだが。
政宗は、その想像を禁じ得ないのだった。
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