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03


 あれから数日がたった。あの日以来、学校で不審な火の玉が見られたという話は聞いていない。ただ相変わらず不審火は続いていて、昨日も校長室の一部が焼けるという火事があったそうだ。話によると火災報知機が作動していなかったら火災に繋がる可能性だってあったという。俺は、なるべくこの件に関わらないようにしていけれど、どんどん事態が悪くなっている様子に不安を覚えていた。

「いっそのこと、その道の人でも呼べばいいんじゃないかな。」

 とは言ったものの、たかが一生徒である自分が騒いだところで、学校が動いてくれるとは思わないし。それに何より、霊能者を名乗るものには偽物が多いのが現状らしいと聞く。(なお、ソースはアパートにいる霊能者の龍さん。彼が本物の霊能力者であることは、俺の超能力の爆発を一発で鎮めたことから身に染みて理解している。)
 そんな彼が「残念なことに、自称霊能力者の多くは本当に自称しているだけなんだよね。」と言っていた。彼曰く、茶の間で有名な霊能力者の中で本当に異能の力があるのは、二・三人くらいしかいないらしい。そんな現状を考えると、学校が本物の霊能者をキチンと呼んでくれるなんて、かなり低い確率であることが分かる。あまり期待できないな。
 もし本当に他に道がなくなったら。そしたら、月野木病院の先生たちに協力を仰いだ方がいいかもしれない。彼らの中には人外もいるし、きっと何とかしてくれるはず。人目に付かないように事件を解決することだって、まぁできるだろう………病院の仕事の邪魔したくないし、なるべく迷惑かけたくないけど。

 そんな風に考えながら歩いていると、廊下の前方から沢山の段ボール箱を持った人が歩いてくるのが見えた。しかし、荷物が大きすぎるためか足元が覚束ない。不安定に積み上げられた荷物もぐらぐらと揺れているし、今にも転んでしまいそうだ。
 俺は帰宅するために持っていた鞄を廊下において、その人に声をかけてみた。

「荷物運び、お手伝いましょうか?」
「えっいいの?ありがとう!これ、すっごく重かったんだ〜」

 荷物を半分持つと、その女の人は一瞬驚いたようだったが、すぐ笑顔になった。茶色の髪をショートカットにした、明るい雰囲気の女性だ。学校で見かけたことはないので外部の人だろうか。彼女に荷物を運ぶ部屋を聞いて、案内もかねて一緒に荷物を運んだ。

「あたし谷山麻衣っていうの。君はここの学生さん?」
「そうです。俺は一年の水戸冬樹といいます。谷山さんは、ここの学校のOBですか?」

 この学校は部活動が盛んなため、部活のOBが尋ねに来ることが多い。そのことを思い出した俺は谷山さんに聞いてみたが、彼女は違うんだーと笑いながら否定する。

「あたしは、渋谷サイキックリサーチっていう心霊現象の調査事務所のバイトで来たんだ〜」
「えっ、谷山さんは霊能力者なんですか?じゃあ、学校が事件解決のために呼んだってことですか?」
「学校のある先生から個人的に依頼を受けたの。あっ、でもその小西さんって人は、『校長の同意も得られた』って言ってたよ。
 後、うちは霊能力者じゃなくてゴーストハンターなの。心霊現象の調査が仕事で、解決はオマケなんだ。」

 やるからには事件もしっかりと解決したいけどね!と谷山さんは言った。というか、ゴーストハンターって何処かで聞いたことがあるような。あ、前に龍さんが言っていたんだ。確か、超常現象を化学的アプローチで調査している人達のことだったはず。龍さんの知り合いにも何人かいて、時には調査に協力することもあるって聞いたな。オーストリアとかイギリスとか、ヨーロッパに多いんだっけ?

「ゴーストハンターって欧州が本場だって聞いたことがあります。日本にもいたんですね。」
「あれ?ゴーストハンターのこと知ってるの?」
「はい。知り合いに詳しい人がいるので、少しだけなら。」

 そう言うと、谷山さんは驚いたようだった。ゴーストハンターは日本だとマイナーだからか、今まで知っている人が殆どいなかったそう。俺も龍さんに聞くまで、そういう人達がいるなんて知らなかったものなぁ。

 指定された教室の前まで行き、その中に荷物を運び入れる。教室内には運んで来た段ボール箱以外にも、高そうなカメラやモニターなどが沢山置いてあった。これらを使って仕事をするのだろう。本当に俺の知っている霊能力者とは違うな。脳裏に浮かんだのは龍さんや病院の先生たち。彼らも道具を使うことはあるけど、こういう機材を使う人は初めて見た。これがゴーストハンターか。ほんとに化学調査って感じの機材だなぁ〜
 俺がポカンとして機材の山を眺めていたうちに、谷山さんは段ボール箱の中身を整理してしまっていた。中身はDVDなどの記録媒体だったみたいだ。中身が空の段ボールを畳んでいた谷山さんと目が合う。彼女は悪戯っ子がするような無邪気な笑顔になった。

「SPR…あっ、SPRは渋谷サイキックリサーチの略なんだけど、ここの機材ってすごいでしょ?あたしも初めて見た時は驚いちゃったもん。」

 谷山さんがSPRと初めて会ったのは、彼女がまだ高校生の頃。彼女の学校では旧校舎に幽霊が出ると噂され、そのためにSPRと数名の霊能力者が呼ばれたそう。けれど、事件の真相は結局幽霊ではなく、地盤沈下で建物が軋んでいたというだけだったという。
 このエピソードを聞くだけでも、SPRが真摯に調査をしているということが伺える。え?なんでかって?化学的視点を持たなければ、心霊現象の原因が地盤沈下だなんて考えつかないだろう。これはSPRが化学的視点を加味して調査をしているってことの証明みたいなものじゃないか。
 それに、この部屋に置かれた機材。パッと見ただけでも、SPRがコレに本気で投資しているのが分かるくらいに高そうだ。もしSPRが偽物だとしたら、この機材にそこまでお金はかけないだろうし。俺なら絶対にかけないし!だから、俺はこのSPRが本物なのではと感じたわけだ。ま、半分は直感だけど。

「そうだ。水戸くんは、この学校の生徒だよね?学校で起こった事件について、知っていることとかある?もしもあるなら、なんでもいいから教えて!」
「冬樹でいいですよ。俺はあまり詳しくないですけど…確か、昨日もボヤ騒ぎがあったって聞きました。谷山さんはご存知ですか?」
「それって校長室のヤツ?うん、結構激しかったよね。部屋のほとんど焦げてたもん。すごい勢いの火だったんじゃないかな。火災報知機で鎮火できたのが不思議なくらいだったよ。」
「え、そんなに凄かったんですか?今までボヤ程度の規模だったから、今回もてっきりそうだとばかり思ってました。」
「ん?今まではボヤ程度のものだけだったの?」
「俺の聞いた範囲ではそうでした。」

 話を聞き終えた谷山さんは、難しそうに額を抑えて何かを考えているようだった。が、すぐに諦めたようで「頭脳担当に任せる〜」と言っていた。この様子だと彼女は労働で稼ぐタイプの調査員だと見た。
 しかし彼女だけに考えさせるのも悪い気がするので、俺もちょっと考えてみることにした。昨日、突然火災の規模が大きくなった理由…理由。

「もしかしたら、これから反応が強まるかもしれない。」

 そしてつるりと口から滑り出した言葉。それは完全な無意識で。自分の口から出た言葉に、俺は自分でも驚いてしまった。だって自分で考えていることと関係ない言葉が急に出てきたんだ。自分でも意味が分からなくて混乱する。いったい今のは何だったんだろう。

「SPRが来たことに反発してるかもってこと?」
「えーと、その辺りはよく分からないですけど。なんとなくそう思っただけで、特に根拠はないです。」

 谷山さんは、あの言葉が俺の意思と関係なく出たものであると、まだ気づいていないみたいだ。あれは、自分の中の知らない何かが勝手に働いたみたいで薄気味悪い。そして、自分でも分からない何かを他人に悟られるのは厄介だ。谷山さんに気づかれないうちに、此処を出てしまうのが良いだろう。

「じゃあ、そろそろ遅くなるので俺は帰ります。」
「あーもう6時か。長々と引き止めちゃってごめんね!ありがとう冬樹くん。」

 彼女に別れを告げて、その教室を後にする。鞄の置いてある廊下へ向かう途中、黒服で背の高い男性とすれ違った。明らかに学校という施設に似合わない雰囲気。その彼の周りには、四つの空間の歪みが感じられた。それは、バイト先の藤井先生が使う『式』達の視え方と似ていた。

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