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02


 放課後。俺はバイト先の月野木病院にいた。ちなみにこの月野木病院は近所で「一度入ると二度と抜け出せない」なんて噂されている病院だったりする。どこかのホラーゲームに出てきそうなフレーズだよな。まぁ、実際は妖怪用の病院だというだけで、普通の病院とそんな変わったところはない。働くスタッフや患者に人外が混じっていること以外は本当にフツー。そして、俺はこの病院で超能力の暴走を抑える修行をさせてもらい、その見返りとしてバイトをしているのだった。
 さて、時刻は丑三つ時をすでに回っている。バイトのシフトを終えた俺は、病院の仮眠室へ行く前に、俺の先生のところへ寄った。ここの病院で働く人間は、霊能力者とか超能力者とか、不思議な力を持っている人ばかりなのだ。俺の先生は超能力者かつ霊能力者らしい。その辺の区別は曖昧なので、俺はよく分からない。とりあえず、先生は人間ではあるらしいけれど。

「…というわけなんですよ。やっぱり、その火の玉って危険ですかね?」
「情報が少ないし信憑性も疑問視されるけれど、冬樹くんは近づかないほうがいいだろうね。話が本当だとすると、キミが狙われる可能性も十分あるから。」

 俺が学校でのことを話すと、白衣を着て紳士然としたその先生は、想像通りの柔らかい声で言った。悪霊のように悪意を持って人を襲おうとするナニカにとって、俺のような未熟な能力者は鴨が葱をしょっているように見えるらしい。霊に対して碌な手の打てない俺は格好の餌食になるかもしれない…把握した。件の火の玉には関わらないようにしよう。

「とはいえ、力のある者は力のある者に引き寄せられやすい。もしかすると、キミにその意思がなくても向こうから来てしまうかも知れないからね。保険としてコレを持ち歩くようにしなさい。悪意のあるものの視界から消えるように、まじないがかけてある。」

 先生に渡されたのはお守り、交通安全と書かれたお守り。これって確か鷹ノ台の駅前で無料配布されていた奴じゃ…思わず先生を見つめてしまうと、先生は茶目っ気タップリにウインクした。

「お礼を入れるものがなかったから、ソレに入れちゃった。てへっ」
「…ありがとうございます。」

 六十代のおじ様のウインクとかいらねぇ〜しかも妙に似合っているのが何とも言えない。とりあえず俺はお礼を述べ、お守りを受け取った。制服の胸ポケットにでも入れておくか〜

 その後、七時までの三時間、病院の仮眠室で睡眠をとった俺は、一度アパートに寄ってから登校した。アパートの最寄り駅とアパートの間に学校があるから、本当は二度手間になっちゃうんだけど。
 でも、るり子さんの超絶おいしい朝ご飯を抜くなんて俺にはできない。ちなみに今日の朝ご飯は、初ガツオの唐揚げ。アスパラとスイートコーンの炒め物。新玉ねぎの味噌汁と枝豆ご飯だった。これがまた絶品で、俺は朝からご飯を三杯もおかわりしたわけだ。バイトの後は飯が旨い!
 そして、学校へ行くと、今日も何やら教室がざわついていた。また何かあったのだろうか。

「おはよう、雨宮。」
「おはよー水戸。今日は早かったな。」
「まぁね。ところでまたなんかあったのか?ずいぶん騒がしいようだけど…」
「それな。例の火の玉がまた出たらしいぜ。しかも、今度は生徒が被害にあったってさ。」

 しかも今度は目撃者が多くいたらしく、噂はあっという間に広がったらしい。噂に疎い雨宮ですら知っているのだから、相当話題になっていたのだろう。俺は詳しく話を聞こうと、興味なさそうな雨宮をこずいた。

「その状況、詳しく知らないか?」
「知ってるけど…つーか、水戸ってそういうオカルト話に興味あったのか?」
「興味というか、まぁそうだな。関わり合いになりたくないから、詳しい情報が欲しいってだけだけど。」
「つまり?」
「出る場所には近づきたくないから、出るという場所を知っておきたいってこと。」
「なるほど。お前、怖い系駄目だったのか。なんか意外だな。」

 雨宮には微妙に勘違いされているけれど、そう解釈しても問題ないので、勘違いさせたままにしておこう。雨宮はちょっと考えてから話し始めた。

「場所は部室練の前。運動部の連中が帰る準備をしていた時に起こったそうだ。」

 グラウンドと校舎の間に構える、運動部の部室が集合した建物。それが部室棟だ。あそこは人通りも多く校舎からも見やすい場所だから、多くの目撃者がいたのだろうと簡単に想像できた。時間も夕方だと言うし、校舎にもグラウンドにも生徒は残っていたはずだ。
 そして、雨宮が言うには、被害者は男女の二人組だったそう。部活帰りに部室棟前で待ち合わせていた二人を、紫色の人魂が襲ったのだと言う。

「その生徒、大丈夫だったのか?」
「髪が少し焦げただけだってさ。まったく迷惑な話だ。いったい誰がこんなことしたんだか。」

 肩を竦めた雨宮は、この事件を人為的な悪戯なのではと考えているらしかった。そういえば、彼はオカルト系の話には懐疑的なんだっけ。自分の目で見たこと以外は分からないし、根本から信じるわけではない。否定はしないが肯定もしないスタンスだから、幽霊の幻想に踊らされない。それが雨宮だ。これ以上話を続けても無駄だろう。
 俺たちは、それきり幽霊の話を切り上げて、とりとめのない話をしながら時間を潰した。俺も進んで事件に首を突っ込みたくはないので、それでいいと思う。大切なのは深淵を覗き過ぎない事。力を持っている俺が、不用意に深淵に近づくと引きずり込まれる可能性が大なのだ。適度な距離感って大事だよね。

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