心の隙間が埋まった気がした




『───んっ…よく眠れたあ』



久しぶりによく眠れた私はベッドから起き上がり身体を伸ばす。


仕事を辞めてから、医者から処方された眠剤がないと寝れない身体になっていた私は久々に薬を飲まずに寝ることができ自分でも驚いている。


こんなこと本当に久しぶりだ。


それに目覚めも凄く良い。


これも、降谷のお陰なのかしら。


しかし、私は降谷にSOSを出した覚えはない。蘭ちゃんに助けてと送った筈なのに降谷が来ていた。


だが、その疑問はすぐに解決する。


蘭ちゃんからスマフォにメッセージが入っていたのだ。蘭ちゃんはどうやら部活の試合で遠征をしていて来れなく、信頼している安室透、降谷に自分の代わりに看病して欲しいと頼んだらしい。


蘭ちゃんは安室と言う男を心底信頼しているらしい。それに、あんな事があり多分、私と安室をくっつけようとしているんだとすぐにそれを読み理解できた。


蘭ちゃんは良かれと思いそうしたんだろうけど私にとってはありがた迷惑だった。


でも、感謝はしている。


温かいご飯も食べれたし、よく眠れた。


お礼くらいは降谷に言わないと気が済まない。


だけど、


何年も降谷から逃げていた私には、そのお礼のメッセージすらも簡単じゃない。


スマフォを手に取り、降谷へお礼のメッセージを送ろうとするも、文字を入力したはいいが送信ボタンを押せずそのメッセージを消去していた。


感謝してはいるが連絡を取りたくはなかった。


そんな私はスマフォを枕元に投げ捨て、自分もベッドへとダイブした。
横になり何もせず一人寝るには大きすぎるキングサイズのベッドを堪能をしながら枕元に投げたスマフォを眺める。


そんな中、投げ捨てたスマフォが鳴り響いたのだ。着信だ。恐る怒る手に取り発信相手を確認する。


もしかしたら…その考えは大当たりで表示されている名前は降谷零で私は昨日のことは夢ではなく現実だったんだと再認識させられた。


しかし通話ボタンは、


───押せない。


鳴り響くスマフォを眺めながら鳴り止むのを待った。そして諦めたのか着信が鳴り止んだ。なんだか安堵している自分がいた。







体調の方も落ち着いたし、横になっているのもと私は寝室を後にし、洗面所で顔を洗い、歯を磨き、寝間着のままキッチンへと足をすすめた。


何分、昨日は体調も宜しくなかったので気付かなかったが、見慣れた部屋に違和感を感じた。いや、普段と変わらないんだけど何だか部屋が綺麗になっている気がしたのだ。いや、これは確実に綺麗になっている。


だって、数日前に飲み放置してあったリビングのテーブルの上のお酒の缶がなくなっているし、雑誌などがあった筈なのに片付いているのだ。



『降谷だな…』



そんなことは簡単に察しがついた。


しかし、私は別にいつも汚くしている訳じゃない。
たまたま、あの時はああだっただけ。


降谷は絶対に相変わらずだらしないっと思ったんだろうが私だって、けしてだらしない生活を送っている訳じゃない。そう自分に言い訳をしてもみたが、こんなに綺麗な事は滅多にないのでそう言う事になってしまう。


綺麗になった部屋を眺めながら私はダイニングテーブルの椅子に腰を下ろしテーブルに伏さった。


よくよく考えてみると自分は何て女らしくないのだろう。
自分のことになると、どうでも良くなり後回しにする癖がある。そして、そのまま。
なにやってるんだろう私は。
一人、自分の情けなさに失望していた。


そんな時だった。


机の上に一枚のメモを見付けたのだ。
手に取りそのメッセージに目を通した。
そこに綺麗な見慣れた字があった。



───起きたら冷蔵庫にご飯作っといたから温めて食べろよ。降谷



そう、降谷からのメッセージがあったのだ。


その文字通り冷蔵庫には美味しそうな食事があり書いてあったとおり温めて有難く頂く事にした私は手を合わせ目の前に並ぶ料理に箸を伸ばす。


人が作った料理って本当に美味しい。
噛み締めながら、噛み締めながら、今まで自分の心にポッカリと空いていた隙間が少し満たされたような気がした。



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