わたしは本当に使えない奴だと思う。
タークスに入るまではただの要人護衛だったわたしは、主任の目に止まって神羅に入社した。神羅がどんな事をしていて、タークスがどんな悪行を働いているのか、そんな事には興味がなかった。わたしはただ、一目惚れだった。ただ、それだけ。

「名前、今回で何度目だ」
「……申し訳ありません」
「いい加減、その言葉も聞き飽きたな」

最初のうちはまだよかった。レノ先輩もルード先輩もわたしの事を一生懸命教育してくれていたし、主任も大目に見てくれていた。
しかし、タークスに所属してもう半年になる。それでもわたしは立派に任務をやり遂げられる事の方が少ない。どこか抜けていたり、気付かないうちに失敗を犯していたり。主任に褒められたくて、これでもかというくらいに頑張った。けど、その頑張りも空回りするばかりでなかなか報われない。
悔しかった。何度も怒られ、呆れられ、目の前で盛大に溜め息をつかれ。認められたいという気持ちだけがいつも先走って、行動が追いつかない。自分でもこんなにうまくいかないとは思っていなかった。どんな汚れ仕事でも躊躇せず引き受けたはいいけど、怖じ気づいてしまう事も何度も経験した。わたしはもしかしたら、向いていないのかもしれない。

それでも、わたしを買ってくれた主任の期待に応えたい。なんとかして、主任に笑ってよくやったなって言ってもらいたい。

だから、

「私の見る目が間違っていたのかもしれないな」

そんな一言を言われてしまうと、今までなんとか保っていた気持ちが一気に崩れ去ってしまう。
泣くまいと歯を食いしばった。泣くな、泣くな、泣くな。主任の前で泣いたって何の解決にもならない。寧ろ、また呆れられてしまう。だから、泣いちゃダメだ。泣くなら一人で――。
だけど、そう思えば思うほどに目頭が熱くなって、止める事が出来ない。視界が滲んでいくのがわかる。ここで瞬きをしたら溢れてしまう。
拭う仕草も出来ない。早く立ち去りたかった。でも、主任はそれをまだ許さなかった。お願い、もう、行かせて。

「名前…」

わたしの名前を呼ぶ主任がどんな顔をしているのかはわからない。ただ、わたしに近付いてくるのだけはわかる。嫌、やめて、傍に来ないで。

「悔しかったら、成果を出せ」
「……はい」
「涙は何の解決も生まない。それくらい、お前にだってわかるだろう」
「……すみません」

もう、止められなかった。幾度も涙が頬を伝う。任務を遂行できない悔しさよりも、主任に見られてしまった悔しさの方が大きかった。主任にこんなことを言わせてしまっているわたしが、情けなくて仕方なかった。

「だから、泣くのは今だけにしろ」

ふわりと、わたしの身体を主任の腕が包み込む。何が起きているのかわからなかった。優しく頭を撫でるその手も、腰に回された強い力も、何もかも理解が出来なかった。
けど、どうしてかそれがとても心地よくて、また一筋涙が流れ落ちた。

「まったく、どうしてお前なんか…」
「す、すみません…」
「いいんだ。私が選んだからには責任は最後まで取る」
「え…?」
「名前が一人前になるまでつきっきりで指導してやるから、覚悟しなさい」
「……っはい!」

それから、僅かに離れてわたしの涙を拭う主任は、優しい笑顔だった。








(めめさま、リクエストありがとうございました!ちゃんと切→甘になれてるか取っても心配!主任って全ての作品においてなかなか掴めないお人だったので難しかったですが、こんな主任だったら一生ついていっちゃうなあと思いつつ、書かせて頂きました…!)
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