教室に戻ると臨也の机の上にはわたしがあげたチョコの包装だけが残っていた。ああやっぱりな、わたしの作戦は見事に成功したわけだけどその場に静雄はいなかった。彼の席の方へ視線を移すと何故か機嫌が悪そうだった。わたしの予想では静雄は照れてたりにやけてたりしている筈だったので、予想外の静雄の反応に少しだけ焦る。もしかしてわたし、自惚れてたかな。

「こんなの、シズちゃんにわかるわけないじゃん」
呆れた様子の臨也がわたしを一瞥し、新羅の持つ箱から最後の一つを奪っているところだった。わたしだって静雄一人が見てもわかるわけないのはわかってた。だから開けるなと言ってこの子たちの好奇心をくすぐって開けるように仕向けた筈なんだけど。
「比べっこしたんでしょ?」
「したけど、静雄に僕たちのは見せてない」
「え、なんでよ」
肝心な人間が見てないのなら本当に意味がない。わたしの気持ちに気付いてもらうためにやったことなのに。
「てか、こんなことしてないで直接シズちゃんに言えばいいじゃん」
「何を?」
「今更それ言う?俺たちにはバレバレだけど」
臨也たちは自分が受け取ったものと静雄のそれが違うのを知ってる。この三人に気付かれたところで困ることは何もなかったからこんなことをしたわけなんだけど、直接そう言うのは照れ臭くて知らないフリをした。でも、本当に今更だ。きっと三人はわたしの気持ちにも静雄の気持ちにも前から気付いてたと思う。
「…だって、そんな勇気ないから」
「だろうと思ったからシズちゃんには教えなかったんだけどね」
臨也、ムカつく。わかっててそうするとか意地悪すぎる。その言葉に新羅まで頷いてる。これでも勇気を出したつもりなのに、それも無駄になってしまっただなんて信じたくなかった。またもどかしい日々が続くのかと思うと気が遠くなる。静雄の気持ちにはなんとなく気付いていたけれど、わたしから言うことは出来なかった。それに、こういうことはやっぱり男の子から言ってほしいという願望があったのできっかけになればいいと思っていたんだけど、それも叶わないようだ。
「僕のように愛を口にできなきゃ人を愛する資格なんてないね!」
「いや岸谷それは言い過ぎだ」
京平が優しくフォローしてくれるのは嬉しいけど、新羅の言葉が胸に突き刺さった。臆病な静雄にやきもきしてるくせに自分では言い出せない。そんなわたしも静雄も、三人の目にはきっと同じように映っているだろう。

臨也たちを利用しようとしたことを少しだけ反省しながら、静雄の背中を見つめる。今日で変われると思ってた。わたしたちの関係がよくなるかなと期待した。でも、そんなのは他人任せじゃいけないんだと気付く。当たり前のことなのに、勇気がないというだけで遠回りして結局上手くいかなくて。

静雄は、進みたいと思ってないのかな。今のままでいいのかな。わたしは、嫌なのに。静雄を独り占めしたいのに。


「静雄、」
ぴく、と肩が反応して振り返った静雄がわたしを見てくれた。苛々してた筈なのにその顔は少しだけ動揺してて、隠そうと必死だった。わかりやすいなあ本当に。
「どした」
「チョコ、開けてみた?」
「…悪ィ、俺は帰ってから開けろっつったんだけど」
「なんか入ってなかった?」
「チョコなら」
「…駄目だ無理」
「は?おい、どこ行くんだよ」
言いかけたけど、出来なかった。どうしよう、おかしくなりそう。第一、こんなクラスメイトがたくさんいる中で言えるわけがない。臨也のニヤニヤする顔、新羅のそわそわしてる様子、京平の心配そうに見つめる瞳に耐えられなかった。決して茶化すような真似をしてきてるわけじゃないのに三人の元に戻ることも出来なくて、これから授業があることも忘れて教室を飛び出してた。

少し遠くからわたしを追いかけるようについてくる足音は、きっと静雄だ。だから絶対に振り返ることはできなかった。

130213
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