「おっ、名前はっけーん!」 神羅ビルに戻ると、早速彼女を発見した。 都市開発部門で働く彼女は、最近やたらと忙しくてお目にかかることは滅多にない。 だから彼女を見かけた日は、つまりラッキーな日だ。 「ザックス、こんにちは」 「よ、元気だったか?」 「ええ、お陰様で」 久しぶりに会った名前は相変わらず可愛かった。どんな時でも俺には笑顔をくれる。そんな名前に俺はもう夢中だった。 「なあ名前、今晩暇だったり?」 「んー、ちょっと忙しいかも」 がっかり。言葉通り俺は肩を落とした。 折角ラッキーだと思ったのに、そこまで上手くはいかないようだ。 「でも、食事くらいなら」 「ま、まじで?」 「うん、まじ」 「っしゃー!じゃあさ、終わったら連絡くれよ。待ってっから!」 「わかった、じゃあまた後でね」 やっっった!超嬉しいんですけど! いやーやっぱり今日はついてるな俺。 気分が上がる。超上がる。 今ならなんだってできる気がする。どんな訓練だってばっちこいって感じ? 「なんだ、今日はやけに張り切ってるな」 俺の訓練の様子を見ていたアンジールが、嬉しそうに声を掛ける。そりゃあ、あの名前と食事できるんだから、いつもは退屈な訓練だって頑張れるってもんだ。 「いつもその調子だといいんだがな」 「俺が普段は適当みたいな言い方じゃん、それ」 「違うか?」 「や、間違っちゃいないけど」 「やけに素直だな。まあ、女遊びも大概にしておけ」 「ち、ちげーよ!」 今までは確かにそうだったかもしれないけど…。 今回は本気の本気だ。 名前のことが好きなんだ。 感じたことのない気持ちが名前を見ると湧き上がってくる。彼女のことを思い出しただけでも、胸が苦しくなるくらいに好きなんだ。 「あー…早く会いたいなあ」 こうして待ってるだけじゃ時間がなかなか流れない。体を動かさないと。 「アンジール、手合わせしてくれ」 「…よし、手加減はしないから覚悟しろよ」 ** 「でさ、この前クラウドって奴と知り合ったんだけど」 「ふふっ、うん、それで?」 あれから暫くして、名前から連絡が入った。 大慌てで準備して待ち合わせの場所へ向かった。俺を待つ名前を見つけると、胸が大きく高鳴った。 何度か食事をしたことはあったけど、それでも慣れなかった。 名前に会う度に、どんどん胸が熱くなるのを抑えられなくなる。 会えなかった日の分まで俺は話し続けた。 緊張していたせいかもしれない。話してないとどうにかなってしまいそうだった。 でも、気付いた。 名前、さっきから俺の話を聞くだけであんまり喋ってない。やべ、俺だけ舞い上がって恥ずかしい。 「わり、俺話しすぎだよな」 「え?別にいいのに。ザックスの話って飽きないから好きだよ?」 好き、とか。すげえ嬉しいんですけど。 いやでも、今のは俺が好きなんじゃなくて俺の話が好きってことだし。喜んでいいのか?いいん、だよな? 「名前は最近何かあったか?」 「ううんと、なんだろう…」 俺も、名前の話が聞きたい。 名前が今どんな仕事してて、どんな生活してて、どんなことが好きで嫌いなのか。 名前のことが知りたい。もっともっと、知りたい。言ってしまえば、名前のすべてが知りたかった。 「あ、そうそう。この前捨て猫拾ったの」 「へえ、名前は猫好きなんだ?」 「うん、まだちっちゃくて可愛いの」 名前は優しいんだな。 それから少しの間、猫の話になった。 こんなに夢中で名前が話してる様子なんて珍しくて、可愛らしかった。 そんなに好きなんだな。 なんか、ちょっと羨ましい。 「で、もう名前付けたのか?」 「あ、うん。でも、秘密」 「えっ、何で」 「や、それは…うん、やっぱり秘密」 なんでそこ秘密? そんなこと言われるとめっちゃ気になるんだけど。 そんな恥ずかしい名前付けたりしたのか? 「なんだー、気になるなあ」 「そんなに知りたい?」 頬を赤く染めた名前がちらと俺を見る。 え、なに。可愛いんだけど。なに、どうしたの名前。今日はまだ酒飲んでないのに。 「まあ、言いたくないなら言わなくてもいいよ」 「…ザックス」 「ん?なに?」 「だから、ザックス…」 「なんだよ?」 「猫、の名前…」 ――え? いやいやいやいや!それどういうこと? 猫の名前に俺と同じ名前付けて可愛がって…て、え? ちょっと待て。待てって。わかんない。 「…あー、もう、だから言いたくなかったのよ」 「ねえ名前、それって、つまり」 俺のこと――。 いや、ダメだ。男の俺から言わなきゃ。 「待って、俺から言う」 「?」 きょとんとした名前が俺を見つめる。 …照れる。 今はまだ言うつもりがなかったし、自信もなかったけど。これなら、自信を持って言える。 深呼吸して、肩を上下させた。 すんげえ、緊張する。 「名前」 「な、なに」 名前を呼ぶだけでも精一杯だった。 改まって名前に向き合うと、なかなか口が動かなかった。たった一言言うだけなのに、こんなにも喉に詰まる。 これが、本気になったときの恋、か。 「どしたのザッ…「好きだ」 どうしようもなく、好きだ。 驚いて目を丸くする名前も、嬉しがって頷くだけの名前も、何か言いたそうでも言葉に出来ていない名前も、何もかも初めて見る。 言った途端、物凄く落ち着いた。 自分でも信じられないくらいに冷静になれた。 目の前の名前が落ち着きがないからだろうか、余裕さえ出てきた。 「じゃあ、そういうことで」 向かい合って座る名前に、前のめりになって顔を近づける。 一瞬だけ触れた唇は、とんでもなく熱を持った。 「よろしくな、名前」 それが俺たちの、世界で一番幸運な日。 (それにしても、猫に俺の名前って!) (う、うるさいわね!) (アヤさま、リクエストありがとうございました!初めてのザックスでなんだかもう緊張しました!笑 ザックスってこんな感じかな、とかなり手探りで書いたのですが…よかったら受け取ってやってくださいませ!) |