うきうき顏で登校してきた彼女。何故そんな浮かれているのか気になって話し掛けると、急にプレゼントを貰った。両手に収まるくらいの小さな箱。咄嗟にお礼を言ったのはよかったが、誕生日でも何でもないこの俺に彼女がこれを寄越した理由がわからなかった。
「なんだこれ」
「なんだこれってシズちゃん、チョコに決まってるじゃん」
思わず出た言葉にいつの間にか傍にいた臨也が反応する。その手には俺の持っているそれと同じ大きさの箱を持っていた。
「僕は既にセルティからも貰っているけどね!日頃の感謝とか言ってたけど照れ隠しだよね絶対に!」
「ありがとな名前」
よく見れば新羅も門田も持っているそれ。中身はチョコで俺ら全員が貰う理由。宙を仰ぎながら思案し、確かめるように教室前方の黒板を目にしてようやく今日が何の日か理解した。
「いえいえ、どういたしまして」
ああ、だから男子が妙にそわそわしてやがるのか。阿呆らしい。とは言っても彼女に貰えたのは嬉しかった。でも、なんとなく複雑な心境になるのはこいつらと同じタイミングで同じ物を貰ったからだろう。貰わなかったら気付かない程興味のない行事だったが、いざ貰うと気になるのは俺への好意があるのかないのか。けれど、こんな渡し方からして後者の確率の方が高い気がする。
「あれーシズちゃん、もしかして貰ったの初めてだったり?」
「ば、そんなことは、」
「これ、名前が作ったの?」
「そうだよ、女子でしょ」
「それにしてもちゃんとしてるな、俺らにやるのなんて適当でいいのによ」
同意しながら感心するようにそれを眺める俺たち。確かに俺らにまでこんなちゃんとしたのをくれるのはやはり彼女は律儀なとこあんだなあと思う。意外とちゃんとしてるというか、抜かりないというか。
「ここで女子アピールしとかなきゃね」
「お前はアピールしなくたって女子だろ」
「嬉しいこと言うね京平」
「わー、さっきからドタチンが株上げようとしてるー」
「るせえな臨也」
門田の言う通り、こんなことをしてくれなくても俺の中ではちゃんと女子だ。俺はちゃんとわかってる、つか、当たり前だろそんなこと。
「でさ、誰が本命?」
「まあ、僕が本命を貰っても名前の気持ちには答えられ「新羅は義理だから安心して」だよねー」
「開けたらわかるかもよ。あ、でも帰ってから開けてね」
他のクラスの女の子にあげてくるー、そう言い残して彼女は教室を出ていった。楽しそうだな。つか、女子にもやるもんなのかこれって。

新羅がちらりと教室の外を覗いている。何やってんだこいつと思いながら、俺は今すぐ開けたい気持ちをぐっと抑え込んで彼女の言葉に従って帰ってから開けようと鞄の中に仕舞い込んだ。が、
「行った?」
「うん、行ったよ」
「よし、俺開ける」
「おい、名前が帰ってからにしろっつってたろ」
「何言ってんのシズちゃん、知りたくないわけ?」
「や、俺は…」
確かに知りたい。本命があるとしたらそれが誰なのかこの際決着をつけたいというのもある。だが、もしも俺じゃなくて臨也か門田だった時どんな反応したらいいのかわからない。
「まあお前ら二人のどっちかだろうな」
「ドタチンかもよ?」
「そりゃねえな」
「門田くんは保護者だもんね、なんか」
「良くも悪くも、な」
空笑いをする門田を見て、まあそうだろうなと失礼ながらも思った。門田が彼女のことをどう思ってるかはわからなかった。なんだかんだでさっきみたくさらりと褒めたりするのはやっぱりそうなのかとも思っちまうが、大して気にしてなさそうなところを見ると好きという感じではないようにも思える。俺らの中で彼女に好意剥き出しなのは臨也くらいで、それを嫌がってない彼女はもしかしたら、そう考えるだけでげんなりして胃がキリキリしてくる。
「シズちゃん開けてみてよ」
「おま、さっき開けるっつってたろ」
「じゃあみんなで開けようよ」
なんだかんだで臨也も自信ねえのか。まあ、俺は臨也じゃなきゃいいや。つか、俺だったらいいんだけど。

少しばかり張り詰めた空気の中、ガサゴソと綺麗にラッピングされたそれを男四人で開けてそれぞれじっと睨む。新羅はそんなことしなくても義理だってわかってるので開けてすぐにぱくりと一つチョコを摘まんでいた。
ごくりと息を飲み包装を取り去って箱を開くと、ころころと丸いチョコ――なんつうんだっけこれ――がいくつか入っていて、あとは同じくらいの大きさのハートみてえなチョコが一つ。ホワイトチョコだった。うまそう。でも、特別変わったところはなかった。彼女の言葉から手紙とか入ってんだろうと思い込んでた俺はそれがなかったことに落胆した。ああ、やっぱり臨也か。つか、こんなんで失恋確定とか最悪なんだけど。
「シズちゃんの見せて」
「俺じゃねえよ、臨也だろどうせ。死ね」
ぽんっと俺が机に放った箱に三人が同時に覗き込む。そして、あ、と三人の間抜けな声がシンクロして俺に視線を注いでくる。
「な、なんだよ」
「なーんだ、つまんない」
「だろうと思ったけど本当につまらないね」
「お前らなあ…」
拍子抜けといった様子で三人が溜め息やら呆れ顔を寄越して、さっきまでの緊張感はとうに何処かへ消え去っていた。だが、俺はその三人についていけてない。
「おい、なんだよ」
「てか、わかるわけないじゃん」
「初めから僕たちがこうするってわかってたね」
「まあそうだろうな」
「だから何だってんだよ!おいノミ蟲、手前の見せろ」
「ん、名前にしてはなかなか美味しい」
嘘だろ、こいつ一気に食いやがった。そんなに頬張ってんじゃねえ、大事に食えよ折角名前が作ったんだぞ。
「なら門田か新羅のどっちでもいいから」
「「断る」」
「なんでだよ!ああくそ、わけわかんねえ」
三人がチョコを頬張る中、結局俺はそれに手をつけられなかった。再び手に取って暫く睨み合いをしたが、何が何だかさっぱりで。なんか、すげえ苛々してきた。

もういい、どっちみち俺じゃねえんだろ。第一あんな言葉を名前が言い残していくからこんなことになったんだ。思わせぶりもいい加減にしろって話だマジで。俺の気持ちも考えろ阿呆が。つか、臨也も喜んでなかったし俺たちのは全部義理だったってことでいいのか?

少し安心した。いや、残念だ。とても。

130212
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