会えないとはわかっていたけど、やっぱり寂しいものだ。数日前に渡すものは渡したし、そこでわたしのバレンタインデーは終わったのに。世の中はまだバレンタイン一色で雑貨屋さんで小物を買ってもバレンタイン限定のショッピングバッグに放り込まれてしまうし、洋菓子店は売り上げを気にしてかここぞとばかりに期間限定商品を推して集客している。こんな日に街を一人で歩くわたしもわたしだけど、もう少し大人しくしていてほしいと街の浮かれた様子にげんなりしていた。

家に帰りそのまま部屋のベッドに体を沈めた。日も落ちていない時間だけれど一人で過ごすにはあまりにも夜が遠すぎるし、外出して少し疲れてしまったので仮眠を取ることにした。寂しさから布団を抱き枕のようにしてぎゅっと腕に収めて足を絡める。今頃彼は忙しく街から街へとフェンリルを走らせていることだろう。頑張って、そう心で呟いて瞳を閉じた。


呼び出しベルが鳴ってわたしは目を覚ました。あれから何時間経ったのかわからなかったが、外が暗くなっていたので恐らく夕食を食べてもいい時間だろう。眠い目を擦り、身なりを整えながら玄関に足を運んで、どちら様と尋ねればお届け物ですと返ってきた。はて、わたしは何か注文をしただろうか。その次に思い出したのは同じような仕事をしている彼のことだったけど、声がまるで違っていたので突然会いにきたとかそんな夢のような展開には期待もしなかった。

扉を開ければ本当に配達にきたお兄さんが立っていてわたしにサインを求めてきた。それを終えて小包を受け取り部屋に戻った。さほど大きくもない、そして軽い小包。普通こういう物には差出人が必ず記載されていなければならないのにそれさえもない。怪しいことこの上なかったがわたしはそれを開けてみた。

目に入ったのは細く綺麗な文字で書かれた手紙。そこにはたった一言『会えなくてごめん』と。わたしは用紙を取り出して目を丸くしながらじっと見つめた。どくん、と大きく胸が鳴る。彼だ。間違いなく彼からの贈り物だ。突然の彼からの贈り物に動揺を隠せない。自然と申し訳なさそうにする彼の表情が脳裏に浮かんで、またどくどくと心臓が五月蠅くなっていく。小包に視線を戻すとさらに小さな箱が入っていて、開けてみると一つ一つ丁寧に個装されている、恐らく洋菓子が姿を現した。それを一つ取って個装を開き、わたしはそれを口にした。甘い、美味しい。じんわりと全身に伝わるあたたかい感覚に思わず口元が緩み、もう一つ口にする。そしてまた舌で溶けて口の中から幸せが膨らんでいく。

思いついたように携帯を手に取り、彼に電話した。暫くして聞こえてきた声に開口一番お礼を告げると照れ臭そうな返事が返ってきてわたしは笑った。
「嬉しい」
『ああ』
「これ、クラウドが選んだの?」
『まあ…』
洋菓子店で怖い顔をしながら悩むクラウドの姿が頭に浮かぶ。その現場を目に収めたかったかも、そう言うと少しだけ怒った様子だったけど、それさえも愛おしく感じてしまう。
『直接渡せたらと思ったんだが、どうしても無理だった』
「ん、いいよ。わかってるから」
『落ち着いたらまた連絡するから』
「うん、そうしてください」
『…好きだ』
「急ですね、また」
『そういう日だろ?』
「まあ、そうだけど」
『いつも言うと安っぽくなるから言えないけど、こういう時くらいは伝えたいと思って』
「ありがとう。わたしも好きよ」

途端に彼は黙ってしまった。またきっと照れているんだろう。わたしが愛を紡ぐといつだって彼はそうだ。それが可愛くて何度も言ったら怒られてしまった。大事な言葉なんだからってムキになる彼は少しだけ真剣で、そんな真面目なところも本当に素敵だと感じる。こんな彼だからこそ、会えなくてもわたしはいつまでも笑顔でいられる。彼となら、どんなに距離があってもうまくやっていけると。

130212
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