今日はクラウドが久しぶりに帰ってくる日。
彼は仕事で何日も家を開けて、やっと、やっと帰ってくる。

「よし!」

目の前にある出来上がった料理を、満足気に眺める。いつもより豪勢なそれは、何時間もかけて作り上げた、自身の中でも最高傑作のもの。
口に入れて喜ぶクラウドの姿を頭に浮かべ、思わずにんまりとした。

早く帰ってこないかな…。そう思ったのは一体何度目だろう。毎夜毎夜、彼の代わりに布団を抱き締めて、それでは全く足りなかった。辛くて泣きながら電話を掛けて彼を困らせたこともあった。
そんな時でも、彼は優しい言葉でわたしを包んでくれて、会話を終える頃にはあたたかい気持ちになれた。

待つ時間はとても長く感じるし、寂しい。待ち遠しくて仕方ない。けど、彼が帰ってくる時間が近づくにつれワクワクやドキドキが止まらなくなって、胸が張り裂けそうになるくらいに喜びが湧き上がってくる。もうすぐ、もうすぐで会える。


彼の愛車のエンジン音が耳に入る。それはまだ距離としては遠いものの、わたしにはハッキリと聞こえた。静まり返った街の中で、ただひとつ待ち焦がれていた音。

段々と大きくなっていく音に合わせるように、わたしの鼓動も大きくなっていった。
リビングまで彼がやってくるのを待ち切れず、玄関へ走った。暖房も届かないそこは肌寒く、手をこすり合わせて息を吹きかけた。

止まるエンジン音。近付いてくる足音。
おかしくなってしまいそうだった。どうにかなってしまいそうだった。早く、早くクラウド。

「ただい…うわっ」
「おかえり!クラウド!」

扉を開けた主に堪らず抱き締めた。
それに僅かによろめいても、しっかりとわたしを抱き留めてくれた。
見上げると、そこには優しい笑顔を向ける彼。

「ただいま、名前」

これでもかというくらいに強く抱き締めるその腕がとても心地良い。待ちに待った彼の感触に、思わず笑みが零れる。

「やっと名前に会えた」
「ふふ、大変だったね」
「ああ…でも、名前の顔見たら疲れなんて吹き飛んだよ」

頬をなぞる細長い指。ゆっくりと近付く視線。吐息。唇。彼の全てを全身で感じ、ぞくりと身体が震える。

クラウドの唇が弄ぶように何度も何度もわたしのそれを啄ばんでは離し、そしてまた啄ばむ。
くすぐったいけど、嬉しくてやめられない。
段々とエスカレートしていくクラウドが、歩みを進めながらキスを続け、わたしの背中がひんやりとした壁にくっついた。甘い口付けに翻弄されて崩れるようにしゃがみ込むと、それに合わせて彼も身体を屈める。その間一切離れることがない唇。

やっと離れた彼の唇が、荒い呼吸と共に僅かに動く。その呼吸がやけに耳の中で大きくこだまし、唇から目が離せない。

「くくっ…」

突然、気の抜けた笑い声が聞こえる。
わたしに跨る彼の瞳を見上げると…跨る?

「わあああ!」
「どした?」

自分が置かれている状況に気付き、頭が真っ白になる。確かめるように視線をあちこちに移すと、確かにクラウドがわたしの上に跨り、上から見下ろしている。

「ク、クラウドが、上に」
「そんなに動揺することか?」

そう言って彼がわたしの首元に顔を埋める。
瞬間、ちりっとした痛みがそこにやってきて、次にねっとりとした舌の感覚がやってくる。

「ひゃっ」
「ん…かわい」

わたしの声に喜びを覚えたのか、再び彼が首元に唇を寄せて舌を這わせていく。

「や、も…ご飯が…」
「ご飯?」

思い出したように丹精込めて作ったご飯が頭に過る。折角作ったのだから、食べてもらいたい。美味しいって言ってもらいたい。喜んでもらいたい。

「後じゃ、ダメ?」
「あ、後って何の後?」

爽やかな笑顔と子供らしい声とは裏腹に、瞳は妖しい輝きを放っていて。解放されたかと思うと軽々と持ち上げられ、歩き出す。それはリビングとは違う方向なことに気付くのは、そこを通り過ぎてからだった。

「ど、どこ行くの?」
「寝室」

当たり前のように口にした行き先へと足を運ぶクラウドに、赤面した。

「ば、ばか、ダメ…!」
「もう我慢できない」

音を鳴らして額にキスをする。これから起こるであろう出来事に動揺を隠せない。
隠し切れなかったのか、わたしの顔を見て彼は不敵な笑みを浮かべた。その笑みが怖かったりもするし、それでもカッコいいと思ってしまう自分がいてどきりとした。

投げるようにベッドに落とされ、逃げる余裕もなくクラウドがやってくる。優しく頬を撫でる彼はどこか余裕のない笑みを浮かべ、その手が下に伸びていく。

「会えなかった日の分まで、たっぷり愛してやるから」

そして彼の顔で、視界が遮られた。








(舞優さま、リクエストありがとうございました!甘々とは程遠くなってしまったかもしれません…すみません…!そして、いつも応援ありがとうございます!)
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