まだ夢の中から抜けきらない状態で居間に足を踏み入れると、おかしな光景が目に入った。 あれ、俺まだ寝てたの?いやだなもう、夢の中でも寝てたのかよ。ほら、起きろ俺。ほら! いくら頬をつねってもその光景は変わらない。こんな事もあるんだなと、俺はまた眠りにつこうと自室に戻ろうとした。 「夢じゃないから!ほら、銀時も手伝って!」 遠くから聞こえる大声に少しだけ頭が冴えた。 そこには何故かサンタのコスプレをした名前が立っていて、クリスマスツリーのオーナメントを両手一杯に抱えている。 なんだよ、まだ夢じゃねえかよ。第一、名前があんな格好するわけねえだろ。俺の妄想か、夢じゃない限りぜってーありえねえ。 …あ、どうせならもう一度拝んでおくか、名前のコスプレ。 ぼうっと名前の姿を見た。いや、ミニスカートとかエロいなあもう。夢だし、どうせならここで襲っちゃっても許されるかな?だって俺の夢だもんな、許されるに決まってる。よし決めた。名前を襲うぞ。 のろのろと名前に近付いて、いざ抱きしめようとしたそのときだった。 「こんのエロじじいがー!」 頭部に思い切り蹴りを食らった。 それは俺の夢の中では絶対にあり得ない出来事。 床に倒れた俺が顔を上げると、不機嫌そうに仁王立ちする神楽。 「銀ちゃんマジで下衆な表情やめろヨ」 「やだなあ神楽。これは俺の夢なんだから名前をどうしようと俺の自「夢じゃねえよこの下衆」 ぐりぐりと俺の腹部を踏みつける神楽はどうやら夢ではないらしい。 その痛みに少しずつ頭が起き始めて、これが夢でない事が理解できるようになってきた。 「わ、わかったから神楽ちゃん。この足、どけてくれませんか」 「その顔洗ってこいヨ」 「は、はい」 大人しくそれに従って、冷水で思い切り自身の顔を叩き付けた。 …現実…だと…。 あの名前が、あの、サンタコスプレをした名前が現実にいる…だと…。 なに、どうしちゃったのあの子。目覚めた?そっちの方向に目覚めた?俺が散々言っても嫌がった名前が自分から、しかも俺が頼んでもいないサンタコスプレをしてあそこにいる。もしかして、日頃行いのいい俺にサンタさんからのプレゼント?まじかよ、やるじゃんサンタ。グッジョブ! 「銀時早くー!」 その声に考えが中断され、急いで顔を拭いて居間に戻った。 相変わらず、サンタコスプレのままの名前。いや、もう銀さんどうにかなりそうなんですけど。 「で、名前ちゃんたちはなにをやってるのかな?」 「今日イブでしょ?遅いけど飾り付け!」 「そうアル!目立って目立って三田に来てもらうヨ!」 「三田って誰?え?サンタじゃなくて?」 「三田でもサンタでもどっちでもいいアル。プレゼントくれるなら!」 そう言う神楽は浮き足立って飾り付けを進めている。 なにこいつ、サンタ信じてんの?さっきサンタにグッジョブとか言った俺が言うのもなんだけど、サンタなんていないからね?お父さんかお母さんだからね?サンタ村とかそんなの、おっさんの集まりだからね?手紙出したって、意味ないからね?って書いてるし! ツリーにでかでかと希望のプレゼントが書かれた紙がぶら下がっている。いや、それ七夕だから。 「ほら、銀さんもこのモール飾るの手伝ってくださいよ」 「あれ、新八くんいたの」 「殴るぞこのやろー」 ** それから俺たちは、この汚らしい事務所を綺麗に飾り付けした。 それに満足し、社長椅子で眺めていると、出てきたのはなんとご馳走。 どこから金を出したのか、想像するだけでも恐ろしいくらいのご馳走。 でも、それに気付いた名前が借金なんてしていないと一言告げたのを聞いてホッと胸を撫で下ろした。 そしてご馳走もあっという間になくなり、新八も帰っていった。 神楽はいい子にしてなきゃと言って早めに眠りにつき、この場に起きているのは俺と名前の二人だけになった。 やっと大人の時間が来た。俺はこの時間を楽しみにしていた。 名前がコスプレを脱いでしまったのは非常に残念な事だが、仕方ない。 「銀時、はい、これ!」 急に差し出されたのは、綺麗にラッピングされた箱。 自然に手が出てそれを受けとると、ニコニコした名前が早く開けてと促す。 それに従って開けたそこには、マフラーと手袋。 「銀時、いつも寒そうな格好してるからあったらいいかなあと思って」 照れくさそうにする名前を、俺はただ呆然と見つめた。 いや、嬉しくなかったわけじゃない。寧ろ、嬉しすぎてどんな反応をしたらいいのかわからなかった。 あまりにも不意打ちすぎる贈り物に、思わず口元が緩んだ。 やべえ、嬉しすぎるんだけど。どうしたらいいかな、ねえ、どうしたらいいかな。 「銀時…?」 「名前、これ、もしかして」 「ん?編んだの」 マジかよ。編んだのかよ。別に市販の奴だっていいはずなのに、わざわざ俺のために編んだとか。こういうのって、あれだろ?結構時間掛かるんだろ? 俺のために時間を割いて、俺のためにこれを編んで。 そんな名前の姿を想像したら、もう、可愛くてたまらなかった。 「やべ、すげえ嬉しい…」 「本当?ならよかった!」 箱をテーブルの上に置いて、嬉しそうに笑う名前を抱きしめた。 てか、俺、なんも用意してねえ。まさかこんなものくれるなんて思ってもいなかったから、なんも。ああクソ、馬鹿だろ俺。金ねえしなあとか言って諦めた俺、死ね!マジで。 「名前、俺何も用意してねえ」 「え?いらないよ」 「いや、でも」 「ううん、本当にいらない。銀時さえいてくれれば」 そう言って笑う名前を一生大事にしてやろうと誓ったのは、まだ俺の中での秘密にしておこう。 そのときは最高の贈り物を用意して、今の俺以上に喜ばせてやろう。 「マジで幸せだ、俺」 「うん、わたしも幸せ」 ああ、サンタって本当にいるのかもな。 |