「ほらっ、クラウド早くー!」 「わかった、わかったから」 思いっきり腕を引っ張られ、エッジの中心地へと誘われる。 休日という事もあってか、街にはたくさんの人が繰り出していて少し窮屈に思えた。人の間を縫うように名前は移動し、俺はそれについていくのに精一杯だった。 やっと辿り着いた街の中心地。 その広場には神羅が建設した記念碑が立てられている。 いつもならただの記念碑のはずなのに、今日ばかりは装いも新たに輝きを放っていた。記念碑というよりも、これはクリスマスツリーに近かった。 それを取り囲むようにたくさんの人が群がり、思い思い写真を撮ったり眺めたりしている。 「これ、タークスの人たちがやったんだって」 「へえ、あいつらが」 ちょっとは見直してあげてもいいかもね、と名前は嬉しそうに目の前の記念碑を眺めながら言った。 確かに、綺麗だ。それに大勢の笑い声や、楽しそうに広場に集まる人で賑わっていた。あんな奴らでも、人を温かい気持ちにできるのかと思ったら、ほんの少し感心してやろうという気なった。おかげで名前もこんなにも喜んでいる。 「ね、クラウド、そこに立って!」 カメラを片手に俺を記念碑の傍に立つように言う。いや、俺一人でこんなのと写ってもだな…。 「俺はいい…」 「えー!いいじゃんいいじゃん!」 周りを見ると記念碑をバックに撮影をしている人がいる。しかしどうせなら名前と一緒に写りたい。 「だったら名前も一緒に」 そう言って名前からカメラを攫い、手が空いてそうな住人に話しかけて交渉をした。彼は二つ返事で了承してくれ、俺はカメラの説明を軽くした後、名前の元に戻った。 すると名前はなんだかもじもじしていた。なんだ、照れてるのか? ぽん、と手を名前の頭に乗せ軽く撫でてやる。嬉しそうな恥ずか しそうな、そんな表情を俺に向け、次の瞬間には飛びきりの笑顔を見せてくれた。 思い返せば、二人で撮る写真は初めてかもしれない。 ティファやデンゼル、マリンと一緒になら撮ったこともあったが、こうして二人で肩を並べるとなんだか気恥ずかしいものがある。 自ら進んで事を始めたのはいいが、今さらになって照れがやってきた。 カメラを構えた男が、おふたりさーん!もっとくっついて!などと、微妙に距離の空いた俺たちに向かってにやにやと近付くようにジェスチャーを交えてくる。 なんだこいつは…。こいつに頼んだのは失敗だったかもしれない。 しかし、そんな男の言葉に従うように名前がぴったりと俺の隣にくっついてきた。見下ろすと、またもじもじ。俺の視線に気付いてるくせに、合わせようともしない。 そんな名前を見ていると、名前の照れが伝わってきて余計に恥ずかしさが込み上げてくる。 男は全体を写すかそれとも…なんてどうでもいいことに悩んで、一向に写真を撮ろうとしない。ああ、苛々する。早くしてくれ。 「よし、じゃあ撮りますよー!」 笑って笑ってー!と、妙に写真家気取りの男に呆れながらも視線をそちらに寄越した。ピカッとフラッシュの光に目を眩ませ、その瞬間に名前は俺から離れて写真家気取りの男へと駆け寄った。 出来具合を確認してるのか、二人でカメラの画面を覗き込み、名前はそれに嬉しそうに頷いて俺の元へと戻ってきた。 「クラウド、見て見て!」 にこにこと画面を俺に見せる。そこにはやや緊張気味の俺と同じく緊張しながらも微笑む名前の姿がはっきりと写っていた。それに、あれだけこだわったのが幸いしてか、記念碑とのバランスもよく写されていた。 「よく撮れてるな」 「ね!ふふ、早く現像して飾りたいなー」 何度も見返しては微笑む彼女が愛おしくてたまらなかった。 写真一枚でこんなにも喜ぶとは、彼女は単純というか、微笑ましい。 「そうだ、名前」 「なあに?」 満面の笑みを俺に見せてくる。 そんな彼女を見て僅かに胸が高鳴る。ああ、本当に大好きなんだな。 「これ」 小さな箱を取り出して、名前の手に収める。不思議そうに見上げる名前に、開けてみろと促して、ゆっくり開ける名前をじっと見た。緊張した面持ちが、ぱあっと明るくなり、俺とそれを何度も見ては声にならない声を出している。 耳元に手をやり、嵌まっているピアスを取った。それを名前に手渡して、先ほどあげた箱に入っている物を取り出して、代わりに付けてやる。 よく似合っている。ハート形のピアス。 「ど、どう?」 「ああ、似合ってるよ」 「いいの、本当に、これ」 「もちろん。名前に付けてほしくて買ったんだから」 付けてもらわなきゃもったいない。 そう言って微笑むと名前が渾身の力で俺に抱きついた。 街中だというのを忘れて、やんわりと名前を抱き返して頭を撫でる。 「ありがとクラウド」 「どういたしまして」 俺にとっては名前のこの笑顔が一番のプレゼントだ。 どんな街の装飾よりも輝いていて、俺を魅了させる、名前の笑顔。 それなのに次の日の朝起きてみると、枕元に綺麗に包装された箱が置かれていて。 キッチンで朝食を準備する彼女に早く会いたくて、それを開けるよりも先にベッドを抜け出した。 |